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<7・Secret>
その瞬間、明らかにチャールズが纏う空気は変わった。刹那見せた無表情に、思わず言葉を失うロザリーである。自分が何か、彼の中のタブーへと踏み込んでしまったのだと理解できた。
「……どうして」
次に見た時には、チャールズは笑顔に戻っていた。けれど。
「どうして、そんなことが気になるのかな?」
ロザリーは恐る恐る、やや高い位置にあるチャールズの顔を見上げていた。絵に描いたような、王子様然とした貴族の青年。初めて見た時から、何も変わったなどいない。なのに。
「え、えっと、その……」
何故だろう。その笑顔が今は、仮面か何かのように思えてならないのだ。笑っているのに、うすら寒い物を感じると言えばいいだろうか。まるで一枚、見えないぶよぶよとした皮でも纏っているかのような違和感。その見えない皮の下、小さな小さな虫が這い回っているように感じてならないのだ。
それは、蛆。
砂粒のような白い白い、小さな虫がびっしりと纏わりついているような違和感。ロザリーの背中を、冷たい汗が流れ落ちる。
「その、お屋敷が……とても大きくて。明らかに私とヨハンナとジャンだけでは回らないのに……何故こんなに使用人が少ないのかと、思いまして。そ、それに……み、皆様とても親切なので、こんな素敵な職場……そうそうやめたいと思われないだろうな、と思ったし……あの、その、皆様も簡単に人をクビになさるようには思えなくて……」
たどたどしく、怪しい言葉遣いになってしまった。なんて失礼なことを、とロザリーは思う。不審な点があると言っても、あくまで夢の中のこと。奇妙な夢を見ているから、それがお屋敷の中だからという理由で、家人にあらぬ疑いをかけるなど言語道断だ。こんな好条件で、自分のような能力もない小娘を雇って貰っているというのに。
――こんな尋ねかたしたら、チャールズ様だって気を悪くなさるに決まってるわ。もう少し気の効いた言い回しの一つも出来なかったの?
恩知らずめ、と己を罵る己。その反面、やはりチャールズの様子はおかしいと感じる自分もいる。
触れてはならない何かにたった今、無防備に指先を伸ばしてしまったかのような。
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