<7・Secret>

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「……そうだよねえ」  やがて。チャールズは、困ったように息を吐いた。その途端、まるで仮面を被っているような違和感は霧散していく。 「これだけ広い屋敷にしては、使用人の数が少なすぎる。当然の疑問だ。掃除のためでさえ、入るなと言われている部屋、踏み込まなくていいと言われているスペースも多いから尚更だ」 「え、ええ……そうですね」 「でも、仕方ないんだよ。本当はもっと人数を増やして楽をさせてあげたいんだけど、なかなかそういうわけにはいかなくてね。……父上から聞いているだろうけれど、エルゲート家はあまりにも特殊なものだから」 「魔法を研究している、ことですか?」 「まあそうなるね」  君は歴史について勉強するのは好きかい?と尋ねてくるチャールズ。まあ、とロザリーは頷いた。勉強というより、読み物として学ぶことが好きなのだ。家では父が趣味で溜め込んでいた古本の一部を片っ端から読み漁っていた。本当に、偏ったものばかりを、である。娯楽が少なかったのもあるが、ヨーロッパの歴史や聖書、多くの童話などはロザリーを別世界へ誘ってくれ、辛い現実を忘れさせてくれる大切な存在だったのだ。  両親が亡くなってからも、彼らの形見の本は残った。親戚の家にまで持っていけたものは、聖書とほんの一部のものだけであったけれど。 「かつて、ヨーロッパでは魔女狩りが横行していた。魔法を使った人間は、悪魔と契約して神に仇成す存在であるとされていたからだね。今でもそのような考えが残っていないわけではないけれど、当時はもっと差別的だった。むしろ神の名を、権力者にとって邪魔な人間を排除するために使っていたようにも思うよ。酷い噺さ、少し知識のある人間や聖書に反する考えを発表した人間などが、次々魔女の汚名を着せられて殺されていったんだから」  それは、ロザリーも知っている。そのやり口を聞いた時は、これが人間の所業であるのかと震え上がったものだ。  異端審問官に、魔女の疑いをかけられた者は、その実老若男女を問わなかった。男であろうと、悪魔と契約したのであれば大罪に違いない――試しを与えて、正しく裁きを下さなければならないと信じていた者たちは多かった。実際のところ、捕まった人間の多くは魔法なんて不可思議な力を使ったわけではなく、ただ少し賢く権力者達にとって目障りであっただけであったというのが真相らしいのだけれど。  神への冒涜、もいいところである。捕まった人間は、ありもしない罪を告白するまで延々と拷問させられるのだ。そして自白をもってして、強引に異端審問官達が正しいことを証明させられるのである。時には“仲間の魔女”を拷問で無理矢理吐かされ、冤罪に冤罪を重ねられることもあったのだそうだ。
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