<8・Beelzebul>

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<8・Beelzebul>

 病気だと言った時の、チャールズのあの顔。やはり何かある、とロザリーは感じた。彼は――いや、きっと彼らは何かを隠している。この家族には、何か大きな秘密があるに違いない。  だが、それが何なのかは皆目見当もつかないことだった。悪夢で見たものがみな現実だったとして、いくらなんでもあんな大人数がこの屋敷で死んでいるなどとは俄かに信じがたいことであったからである。しかも、全員がどうやら消化器系に異常をきたし、悶え苦しんで死んでいる様子。毒か病と思っていたが、昨日の夢の少女の言葉が本当ならば“悪魔”のせいであるという。 『いや、いや……おねが、助け……あたしの、身体から、出ていって……あ……』 『早く、早く……み、つけ、ないと……』 『悪魔を、追い出す、方法……!ここの、本の、どこか、に……っ』 ――悪魔に寄生された、ってこと?それであんなに苦しがってたの?死んだ他の人たちも?  もし、本当に悪魔によってメイドたちが死んだ事実があったとして。何故、それをチャールズたちは隠しているのだろうか。その悪魔というものがもし研究の失敗か何かの産物であったとして、それが表沙汰になれば大問題だというのは想像がつくが。なんせ、悪魔は神と対局を成す存在。そんなものを修道会が認めた魔術師の一族が呼び出してしまったなどということになったら、修道会のメンツは丸つぶれだ。下手をしたら、いや下手をせずともその後ろにいるであろう英国政府そのもの顔にも泥を塗ることになるだろう。  そう、はっきりとチャールズたちは明言しなかったが。彼らの一族に研究を指示した大元は、この大英帝国そのものであるのかもしれないのである。そりゃあ表沙汰にできるものではないだろう。――いくらなんでもあの人数が死んだのを隠蔽していたとしたら、倫理観がなさすぎるとしか言い様がないが。 ――確かに、私が夢の中で見たあの東洋人っぽいメイドさんは実在していたみたいだけど。……だからって、あの夢が本当なんて確証はないし。信じたくないし。だってみんな、とってもいい人なのに、疑うなんて……。  ぐちぐちと考えながらも、ロザリーは仕事の合間に、夢に出てきた書庫のところまでやってきていた。間違いない。やはり、あのメイドが死んだのはこのドアの前だ。この家は薔薇を大切にしているためなのか、ドアに刻まれる模様には薔薇が非常に多いが、剣と添えて描かれているドアはやはり此処だけである。  この書庫は、特に“入るな”とは言われていない。だから入ったところで咎められる心配はないはずだ――うっかり掃除をサボっていただろうと糾弾される可能性があるのは別として。  つまり、そこまで大きな秘密や本があるとは思えない。少なくとも一家にとって見られたらまずいものならば、こんないちメイドが簡単に入ることのできる書庫の中に隠しておくようなことはしないだろう。
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