<8・Beelzebul>

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――悪魔を、追い出す方法。……本当に、そんなものがあるの……?  その時。 「うぐっ……!」  ずきり、と腹に強い痛みが走った。ロザリーはその場で、壁に手をついてずるずるとしゃがみこんでしまう。医療の本も少しだけ読んだことがある。痛みを感じるのは、腸のあたりであるように思われた。ずきずきと痛む下腹部を抑えると、もぞもぞと妙な感覚がある。 ――え?  そう、もぞもぞ、なのだ。腹の中に、吐き気がするほどの異物感がある。しかも、もぞもぞ、を感じるのは腸なのだ。嘘でしょ、と思いながら再度それを感じたあたりに手を添える。結果ロザリーは――何から己の腹の中で、もぞり、と蠢くのを感じ取ってしまったのだ。それは、ロザリーが痛みを感じる場所あたりで、まるで這い回るように動いているようだった。脂汗を掻き、凍りつくロザリー。それは単純な痛みだけではない――恐ろしい現実に、漸く思い至ったからである。 ――お腹が、痛いの……ただの食あたりとかじゃ、なかったの?  ざあ、っと顔から血の気が引いてくる。そんな筈はない、と思いたかった。確かにとても痛いが、血を吐くほどではない。ちょっとお腹を下してしまうことが増えただけで、そこまで深刻な症状などではないのだ。だから違うはずだ、自分は。あの、メイド達と同じように苦しみぬいて死ぬようなことなど、けして。  だって悪魔なんてもの、自分は知らない。断じて知らないのだから。 ――い、嫌。偶然よ、偶然に決まって……!  その時。  ロザリーは、気づいてしまった。自分が手をついた壁。よくよく見ると――うっすらと、赤茶色の染みが残っているということに。  それは、手の形、であるように見えた。  悪夢の中の、少女の最後がフラッシュバックする。あの少女は、苦しみながら床を履い、そして壁を引っかきながらドアを開こうとしていた。吐いた大量の血と吐瀉物で、己の手をどろどろに汚しながら。 ――うそよ。  残っているのは、手形だけではない。覗き込むように手形のあたりを観察したロザリーは見つけてしまった。まるで人間が引っ掻いたような、妙な痕が残っていることを。 「あ、ああ……!」  理解した途端、ロザリーはぺたりとその場に尻餅をついていた。全身に冷たい汗が吹き出す。寒気と震えが止まらない――わかってしまった。自分が見た夢は、過去実際に起きた出来事であったのだと。やはり、ただの悪夢などではなかったということを。  あのメイドの少女は、此処で力尽きたのだ。血を吐き、酷い腹痛で転がりまわって苦しみながらも、活路を見出す方法を必死に探して。
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