<9・Truth>

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<9・Truth>

 地下室の扉に、幸い鍵はかかっていなかった。やや大きな音がしたため、怪しまれないかどうか少々心配になったくらいである。  蓋を持ち上げれば、下には長く梯子が続いていた。ランタンを落とさないように気をつけつつ、スカートが引っかからないよう慎重にロザリーは地下へと降りていく。もう、後戻りなどできない――強い焦燥が、胸を焼いていた。  自分は、確かめなければいけない。己が見ていた家族の姿が本当か、偽物なのか。あるいは真実の中に虚構が混じっていたのかどうか。そしてこの一家が、悪魔と契約を交わしてしまい――メイド達を次々と死に追いやっていた犯人であるのかどうか。そうしなければ、次に同じように死ぬことになるのはロザリーであるのかもしれないのだから。 「うっ…ぐうっ……!」  降りている最中にも、腹がじくじくと痛みを発してくる。明らかに迫る生理現象に、脂汗を掻き始めるロザリー。あと少しで真実が分かるかもしれないという時に、と唇を噛み締める。幸いにして、恐ろしいまでの排泄欲と痛みは、暫く震えて耐えているとどうにか波が去ってくれた。  次は我慢できないかもしれない。なるべく早く、この地下室を調べてしまわなければ。もし、何もなかったならそれはそれでいいのだ。素晴らしい一家の無実を晴らすためにもなる。そう言い聞かせ、ロザリーは梯子を降りていく。  やがて、地面に降り立つと。目の前に、がっしりとした鋼のドアが鎮座しているのがわかった。鍵がかかっていたら万事休すといったところだが、どうやら此処もそういったことはないらしい。ここまで都合がいいと、まるで誘導されているような気さえしてきてしまう。否、実際そうなのかもしれない。見えない意思が、ロザリーを真実に導こうとしているのかもしれなかった。なんせ、あの本が地下室に入口付近に落なければ、自分はきっとこの場所に気付くことなく探索を終えてしまっていたのだから。 「ぐぐっ……!」  足を踏ん張り、どうにか思いドアを押し開く。途端、ひんやりとした空気が中から漏れ出してきた。ぶるる、と全身を震わせる。長居はしない方が良さそうだった。やや饐えた臭いが鼻をつくのもあるが、今の体調で寒い場所にいたらそれだけでさらにお腹を下してしまいそうだったからである。  しくしくするお腹をさすりながら、ドアの向こうへと一歩踏み出したロザリー。まず、ランタンの明かりに照らされたのはいくつもの本棚だ。此処にも本――これらも、魔法の研究書というやつなのだろうか。中央にも何かあるらしい。灯りを向けると、奇妙な形の木造テーブルだった。まるで十字架を倒したような形なのである。十字架の短い部分には何やら縄のようなものが垂れ下がっているではないか。そして、テーブルであるならば無いと不便であるはずのもの、椅子が何処にも見当たらないと来ているのである。
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