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「これ……」
ぞっとした。それが、テーブルではないことに気づいたからだ。なんせ、十字架型のそれは、あちこち赤黒い染みがついていたのだから。
「こ、これ……テーブルじゃなくて……まさか」
ベッドではないのか。それも、 “人間の姿をしたもの”を横たわらせて、拘束して実験をするための。
――ま、まさか。そんなことない。ないわよ、ね?
動揺してふらついたと同時に、本棚についぶつかってしまっていた。どさ、と一冊の薄い冊子のようなものが転がり落ちる。ロザリーは慌ててそれを拾い上げ、表紙に書かれた文字を見て目を見開いた。“diary”――日記だ。名前の欄にはユリア・マツナガとある。マツナガ――英国では耳慣れない苗字だ。もしや、これはあの日系イギリス人の少女の日記、だったりするのだろうか。もしそうなら、何故こんなところに、という話になるが。
――こうして、本が落ちたのもお告げなのかもしれないわ。見てみよう……。
誰かが自分に、真実を知って欲しいと願っているとしたら。それはきっと、この少女か――あるいは、同じように犠牲になったメイド達の意思なのではなかろうか。誘われるように、ロザリーは日記帳を開いてみることにする。
そこには、やや走り書きの、少女の日記が記されていた。あちこち破り取られているのか、書き損じが多いせいで読むことができないが。読み取れた部分だけを拾えば、ざっとこんなかんじである。
『●月●日。
私は、本当に恵まれた娘であると思う。
肌の色でも階級でも差別されがちな私のこような娘を、サディアス様は温かく迎えてくださった。今日からこの家の新しい娘だと、そう仰ってくださった。
一家の方々は、貴族だというのに偉ぶるということをしない。ヒルダ様に至っては敬語もいらないから!と友達として付き合ってね!なんてことまで言われてしまった。
この国の未来を真に憂いて、平和を願う一族。
彼らがもしこの国の政治に携わる時が来るのだとしたら。きっとその時世界は、もっと良いものに変わっていることだろう。
それにしても、この家は御飯が本当に美味しい。紅茶が絶品なのは言うまでもないが、クッキーも非常に美味だった。貴族の方々と同じ食事をこうも贅沢に頂けるなんて、本当に夢のようだ』
『●月●日。
此処に来て一週間ばかりすぎた。
いくら食いしん坊だからって、身分も弁えずご馳走をたくさん頂いてしまったのでバチが当たったのかもしれない。最近お腹が痛いことが多い。今日も、トイレに篭ったせいで朝の仕事に遅れてしまった。ヨハンナには本当に申し訳ないことをしたと思う。玄関の仕事を全部押し付けてしまうだなんて、メイド失格だ。』
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