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やがて。ロザリーはゆっくりと目蓋を持ち上げた。明るい光が瞳を突き刺す。眩しい。そして、身体を揺らそうとして、それが一切叶わないことに気付くのだ。
理由は単純明快。ロザリーの両手両足が、固定されてしまっているからである。身体を動かすたび、ぎしり、ときつく縛られた縄が軋んだ。
絶望に、さらに上書きされる絶望。声を出そうとして――喉から漏れ出たのは、酷く醜い呻き声だけだった。
「う、ぎいいいいい!いいいいいい!」
激痛。腹の中で、ぼこぼこと何かが暴れるような痛み。辛うじて動く首で思わず己の腹を見下ろそうとして、そこでようやくロザリーは己が全裸であることに気付くのである。服を剥ぎ取られた状態で、あの十字架型のテーブルに縛り付けられているのだった。幸い、蝋燭や松明がしこたま灯されているのか、先程までのような寒さはない。けれど。
今はそんなことさえも気にしていられないほど――腹が、痛い。
「ひぎ、いいいいい!ぐうううう!いだい、いだい、いだいいいい!」
激痛は、急速に尻へと下ってくる。漏れてしまう、と思った次の瞬間には、醜い排泄音は響き渡っていた。恐ろしい臭気とともに広がる、下半身の粘ついた絶望的な感覚。しかもそれに羞恥心を感じる余裕さえないのだから末期だ。とにかく、苦痛を逃すために排泄も何も我慢などしていられない状態である。ロザリーがジタバタしつつ失禁していると、誰かがそんなロザリーの顔を覗き込んできたのだった。
「ああ、すまないねロザリー。もっと早く気づいてあげられれば良かった」
心の底から心配そうな男性――サディアス。
「そうだよロザリー。母さんも言っただろう?不調な時は、無理せずにきちんと申告しないと。このままじゃ、君が死んでしまうよ」
ロザリーが密かに想いを寄せていた美しい青年、チャールズ。
「うん、身体は大事にしないと。私、初めてだけどちゃんと見届けるからね!ロザリー、頑張って!」
幼い、ヒルダまで。家族の中でいないのは、ベッドから出ることが難しいというジュリアだけである。
「ど、ういう、こと……なの……?」
彼らは、何も変わらないように見える。その様子だけ見れば、ロザリーが信頼していた優しい家族そのままだ。それだけに異常だった。ロザリーが全裸で縛り付けられ、恐ろしい腹痛に泣き叫び、あまつさえ便を漏らすような失態を晒していてもなお。彼らは、どこまでも普通の態度を崩さないのである。まるで、可愛い家族を優しく看病でもしているかのように。
「そうだね、君も知りたいことがたくさんあると思う。どうにか君はまだ間に合うようだし、処置をしたら説明してあげるからね。ちょっと待っていてね」
彼は手袋を嵌めると、ロザリーの下半身を確認し始めた。何を、と思っていると。彼はロザリーが漏らしたものをシャーレに取って、保管しようとしているではないか。それを光に翳して見ながら、うんうんと頷いている。
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