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「血が混じっているし酷く下してはいるけれど、まだ普通の便だ。内臓への損傷は少ない。これなら、まだ当面延命が可能だ。早く気づいて本当に良かった。今までのメイド達は、我慢しすぎて手遅れになる者が多かったから」
ガラガラ、と何かを運んでくる音がする。何を、と思っていると。サディアスに、ロザリーは強引に口を開かされていた。そして、大きく開いたまま固定された口に、何かチューブのようなものを押し込められることになる。やがてそこから、妙に甘ったるいものが流れ込んでくるのがわかった。蜂蜜だろうか。いや、何か固形物のようなものも混じっているようだが――。
「んぐ、ぬぐうううっ!」
息をするためには、そのチューブから流れてくるものをひたすら飲み込み続けるしかない。やがてロザリーは、痛みに呻くことすら難しくなった。少なくとも、チューブに完全に口を塞がれてしまうので、話をすることは全くできない。
誰か説明して、これはなに、なんなの。ロザリーは涙を浮かべて、必死で眼で訴えるしかなかった。
「ちょっとはこれで、痛みがマシになるんじゃないかな。餌が潤沢に来れば、彼らは飢えて宿主の腸を食うことはやめるはずだから。……しかし、君には人一倍多く御飯を食べてもらっていたはずなんだけど……それでも全然足らなかったんだなあ。まだまだ研究が必要ですね、父さん」
「そうだな。個人差もあるし」
「うぐうっ……ぐう!」
「パパ!お兄ちゃん!ロザリーがいろいろお話して欲しいって言ってるみたいだよ!」
冷静に話す父親と兄、無邪気に口を挟むヒルダ。そうだ。とにかく説明して欲しい。このチューブで強引に、甘いものを流し込むのもやめてほしい。息はできるが、顎は痛いし苦しいことには変わりないのだ。痛みがマシになるということは、痛み止めの薬なのかもしれないが――だからといって、このように無理やり流し込む必要などないではないか。
「そうだね、説明しようか。ああ、本当は母さんも此処に来たかったはずなんだけど……母さんはもうだいぶ身体がダメになってしまっているから、仕方ないんだ。許しておくれよ」
やがてチャールズが、ロザリーが惚れ惚れすると思った笑顔そのままで語り始めるのである。
「僕達が、ルインゼル修道会に直々に許可を貰って魔法野研究をしている、というのは話したね?それらは全て神のため、この国をより良くするための研究だ。僕達はかねてより、この国の身分制度をなくすためにはどうすればいいかを考え続けてきた。階級があり、差別があり、貧富の差が大きい今の英国のままでは……永久に本当の平和など実現できないと思ったからね。そのような事は、主も断じて望まれるはずがない、と。しかし、どれほど研究を重ねても、人々の愚かしい心の闇を晴らすための魔法は見つからなかったんだ。階級があっても、差別を助長する心がなければ、ここまで貧しい人達が苦しむこともないはずなのに」
彼は汚れた手袋を外して手を消毒すると、優しい手つきでロザリーの髪を撫でた。ロザリーにこのような屈辱と苦痛を与えた張本人とは思えぬ、慈しむような手で。
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