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「私も、大きくなったらお父さんみたいに立派な魔法使いになるの!神様やみんなの役に立つ、真っ白な魔女様になるのよ!」
きゃっきゃと明るい声を響かせるヒルダ。
「でも、まだヒルダは小さいから。魔法を本格的に教えてもらう、のはまだあとなんだって。十二歳になったら教えてくれるって言ってたけど、ちょっと不安。だって私、とっても不器用なの。お勉強も好きじゃないし、運動も得意じゃないし……遊ぶのは大好きなのに」
「みんな、そういうものだと思いますよ、ヒルダ様。勉強できるのは恵まれた証とも言いますけど、勉強よりも遊ぶ方が好きって子供はとても多かったですから。私の弟も同じでした。文字を覚えるのも、正直苦痛だった……と」
「ロザリーには弟がいるの?今も一緒に住んでるの?」
「いえ、両親が亡くなったあと、別の親戚に引き取られたので今はどうしているか。……お時間ができたら、弟に手紙を書かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんいいよ!お姉ちゃんが頑張って働いてるって聞いて、嬉しくない弟はいないもん!」
良い子だなあ、とロザリーは感激する。いくら仕事のためとはいえ、身分不相応の大きな屋敷に泊まらせてもらって、まともな食事もお給金も貰えるようになる。なんと贅沢で幸せなことであるか。裏を返せば、貴族の方々にとって自分達のような木っ端に食事や寝所を提供することそのものを腹立たしく思う者も少なくない。露骨に見下されたり、無茶な要求をされることも少なくないと聞いていただけに、幼い少女の優しさは十分ロザリーの胸に染みるものであったのだ。
こんな良い子の両親や兄が、悪い人たちであるはずがない。先ほど出会ったメイド頭のヨハンナもとても優しそうな人物であったし、どうにかうまくやっていけそうな気がしている。
「ありがとうございます、ヒルダお嬢様。これから、どうぞよろしくお願いいたしますね」
ロザリーは深々と頭を下げる。
少しの不安と、それ以上の期待と希望でいっぱいだったロザリー。当然、想像するはずもないのだ――この家に関わったがゆえに、あんな恐ろしい目に遭うことになる、などということは。
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