<2・Family>

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「まあ、秘密の部屋の一つや二つ、あってもおかしくはないですよね」  とりあえず、無難な感想にまとめておくことにする。そんなロザリーの心中を知ってか知らずか、そうね、と頷くヨハンナである。 「私も勿論、入ったことがあるわけじゃないのよ?ただ、家族しか入れない……もしかしたらヒルダ様もまだ入ったこともない秘密の部屋があるらしいの。この屋敷の地下に、なんだけど」 「地下、ですか?此処、地下があるんです?間取り図にそんなものなかった気がしますけど。ワイン倉さえ地下ではないですし」 「入口が隠されてるんですって。だから普通に掃除するだけならまず気づかないらしいわ。何にせよ、万が一入口を見つけてしまっても、絶対に入らないように言われてるの。私も既にやめてしまった前任のメイド頭に言われたし、その人も先輩に聞いたという話だから」 「なるほど……」  秘密の地下室。ちょっと興味がある、というのが本当のところであったが。自分達のような下々の者に見せられないものがあるのは、普通の貴族であってもなんら珍しいことではない。仕事の書類なんてものもあるだそうし、それこそ教会に特別に認められた魔術――なんてものが本当にあるのなら、それを見せていい相手は限られていることだろう。  気をつけておこう、と決めるロザリーである。せっかく素敵な家に雇って貰えたのに、そんなことで嫌われたりクビになるようではたまったものではないのだ。 「わかりました、気をつけます。そういえば、こんな大きなお屋敷なのに、使用人の数は極端に少ないですよね。私を雇ったのもメイドが一人やめてしまったからだと聞いていますし。理由はご存知ですか、ヨハンナさん」  ロザリーが尋ねると、それはねえ、とヨハンナは苦笑いして告げるのだ。 「人件費削減のため」 「そうなんです?」 「ただでさえ社交界の時期はとんでもなくお金がかかるのが貴族だもの。持っている土地からの取立てを最低限にしたいなら、削れるところは削りたいっていうのがサディアスさんのご意向らしいわ。ご立派な方よね」 「そうなんですか」  確かに、貧しい人々を慮ってのことならば立派だとは思うが――それはそうと疑問はあるのだ。いくらなんでもこの規模の屋敷を扱うにしては、ヨハンナと料理人のジョン、もうひとりのメイドだけでは足りていないのではないかということである。人件費削減といっても、それはあくまで削れるようなら削るでなければ意味がない。むしろ“何故ここまで人員を削れるのか?”は少し奇妙な話ではある。 ――……まあいっか。気にしてもしょうがないし。  とりあえず今は燭台磨きに集中しよう、と思うロザリーである。  細かなことなど気にしても意味などあるまい。自分はただの初心者メイド。きっと高貴な方々には、自分達などには思いもよらない事情があるのだろう、と思いながら。
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