<3・Voice>

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<3・Voice>

 不意に、何かに引っ張られるように意識が浮上する。まるで海の底から、自分という存在の輪郭が徐々にはっきりしてくるかのよう。誰かに呼ばれているような、それとは少し違うような。  なんだか、身体の中からざわつく声が聞こえてくるような気がする。何を言っているのだろう――ロザリーは目を閉じたまま、しばしその声に耳を傾けてみることにした。 『来たね』 『来たよ』 『来た来た』 『新しいメイドさんだね』 『そうだね』 『どっちになるかな?』 『どっちになるんだろうね?』 『とっても可哀想』 『違うよ、とっても幸運なんだよ』 『それは真逆ではないの』 『真逆だけれど、どちらも一緒』 『仲良くできるかな』 『できるといいね』 『できなかったら仕方ないよ、その時はXXXXになるだけだもの』 『それもそうか』 『もうちょっと右、ほらほらもうちょっと左に行って』 『ぐるぐる』 『違うよ、そんなに奥まで行くのは早いよ』 『だめだめ、まだだーめ』 『楽しいね、とっても楽しいね』 『そうだね楽しいね』 『確かにね、それは違いないね』 『うまくいってもいかなくても、楽しいのは間違いないよね』 『これからきっと、もっともっと仲良くなれるし、楽しくなれるね。楽しみだね』 『うんうん』 『きゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』  幾つもの談笑するような甲高い声は、やがて楽しげな笑い声の合唱と変わった。一体誰なんだろう、と思う。まだ小さな、子供のような声だった。しかし、あのヒルダの声とは違う気がする。男の子のような、女の子のような、そのどちらでもないような声。一体誰なのだろう。この屋敷に、他にも子供がいるとは到底思えないのだが。しかも、どうにも賑やかで無邪気そうな子供達だ。一人や二人、なんて人数ではなさそうである。
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