夏の淡い思い出

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夏の淡い思い出

 とある夏の日。セミが鳴くような、暑い日。 『今日も、全国各地で35度を越える猛暑日となりますので、熱中症に十分警戒してください。続いて、各地の降水確率です…』 「いやー。参った参った。最近は異常気象が続いてるね〜」 携帯が震える。10時のアラームだ。 「そろそろ塾行くか。」 そして僕は自転車で塾に向かう。その日は11時から夏期講習だった。 「よし、今日も頑張るぞ!」 そして2時間後、 「やっと終わった〜でも、何しよう…」 家は共働きなので、親はいない。友達と遊ぶにしても、一緒に遊んでくれる友達なんているか?と悩んでいた時、携帯が鳴る。 『From:聖吾 To:架瑠 件名:遊ぼ 塾の近くの公園で遊んでるぞー!一緒に遊ばないか?』 僕は思わず言っていた。 「ドンピシャ〜‼︎」  そしてものすごくワクワクしながら公園に向かった。 塾で疲れていたのか、そこからは夢のような時間だった。 アスレチック、鬼ごっこ、いろいろなもので遊んだ。しかしその時間はあっという間に過ぎていき、やがて帰る時間となった。 「みんな、俺もう帰るわ。じゃあな」 「ちょっと待って架瑠、お前Pointって知ってるか?」 「ああ、知ってるけど…それが?」 Pointというのは、今話題のチャットアプリだ。僕は欲しいと思っているが、親からトラブルがあったら困るという理由でインストールしてもらえなかった。そして聖吾は言う 「メールだと面倒くさいから、インストールしていいか聞いてみてくれないか?」 「おっけ、聞いとく。」 なのでその夜、無理を承知で聞いてみた。 「Pointインストールしてもいい?」 そう言えと、親は意外にも、 「中学生になったんだし、そろそろいいか。」 と言った。驚いたが、すぐにそのことを友達に言うと、 「え?本当に!じゃあ明日ID交換しよう!」 みんなが嬉しそうだった。共通の話題を持てたことで、また一段と仲が良くなった気もした。 僕がこのアプリをインストールしたという噂はどんどん広まり、『友だち』 の数も増えていった。そして8月も終わり、秋にさしかかった時。 「あれ、この人誰?」 自分でIDを追加した覚えはない。ということは友達経由か… 名前は、、明石瑠璃…?まさか、そんなことが… そして、確認の為、小学校の卒業アルバムを見た。やっぱり同じだ。  これは、2年前のこと。当時僕は小学6年生で、受験も控えていた為、僕は学年でも頭が良かった。なので、放課後に問題の解説を頼まれることが多く、その中でも特にたくさんの質問をしてきたのがその瑠璃だった。 瑠璃は、顔はすっきりと細く、白く通った鼻筋。誰から見ても“美形”だった。 帰り道が同じ方向で、一緒に帰ることが多かった。その時から、今まで感じたことのない衝撃を感じた。瑠璃を意識していた。いつまでも、この恋が続きますように、ずっとそう思っていた。しかし、恋はあっけなく終わった。  梅雨が明けた、夏休み前の登校最終日。 「今日でやっと学校終わる〜。本当に長かったね!」 「てかさ、瑠璃いなくない?」 「本当だ。こんな日に休んじゃうなんて残念。」 みんながこれだけ驚いているのも無理はない。なぜなら今まで、瑠璃は一度も休んだことがなかったからだ。その日は、学校に行ってもその話題で持ちきりだった。 「え?瑠璃休みなの?」 「ショック…」 僕も瑠璃を心配していた。しかし、あんなことになろうとは、誰も思っていなかった。 先生が来て、朝のホームルームが始まる。 「起立、礼」 『おはようございます!』 そして、クラスの誰かが、こんなことを言い出す。 「先生、今日瑠璃はなんで休みなんですか?」 そして、その理由が伝えられた時、みんなの表情が一瞬にして固まった。 「瑠璃は、転校するそうです。」 “まさか”みんなそのような表情だった。頭の上に、転校という2文字が重くのしかかり、それに反比例するかのように、涙と今までの思い出がこみ上げてくる。こんなことになるなら、もっと1日を大切に生きれば良かった。しかし、今になって後悔しても後の祭り。そう思った瞬間、僕は走り出していた。もうホームルームなんて無視だ無視。瑠璃の家に全速力で走っていた。そして着いた瞬間にインターホンを押す。 「瑠璃さんいらっしゃいますか?」 「はい。少し待っていてください。」 この待っている時間も、ものすごく長く感じられる。そして、出てくる。 「ねえ、着てくれたのは嬉しいけど、今ホームルーム中だよね…」 「それより、転校って、親の転勤?」 「そうだよ…急な転校でごめんね。」 「ううん、全然大丈夫!これからもよろしく!」 すっかり晴れた青空に、ひとすじの飛行機雲。ほほえむ僕に瑠璃はそっと手を出す。 「こちらこそ、よろしくね!」 そして、瑠璃とは別れてしまった。  携帯が震える。アラームが鳴った。塾だ。しかし、塾に行っても、瑠璃との思い出で頭がいっぱいで、授業に集中出来なくなる。そう思い、思い切ってメッセージを送ってみた。 「違ったら、すいません。元6年3組の、明石瑠璃さんですか?」 すぐに既読がつき、返信が来る。 「そうだよ!ついでに言うと敬語じゃなくてもよきだよ〜」 「久しぶり!でも、すぐ塾だから、また後で話そ!」 「了解!」 そして塾が終わる。ものすごく集中できた。そして帰ってきた後は、ずっとチャットで話していた。どこに住んでいるのか、どんな学校なのか、などを。また、瑠璃から僕にも、同じような質問が飛んできた。しかし、まだ僕の好きという気持ちは伝えられなかった。  そして翌朝。瑠璃からメッセージだ。 「今月、空いている日に会わない?」 すぐに答えがでる。 「もちろん!」 何のためなんだろう。と言う気持ちもあったが、それよりも、“会いたい”と言う気持ちの方が勝り、来週の日曜に会うことにした。 その日まではものすごく長かった。毎日学校に行き、塾に行く。その全てが長く感じられた。  そして、当日。待ち合わせした公園で待っていたら、瑠璃は時間きっかりにやってきた。 「久しぶり!背伸びたね!」 「こちらこそ久しぶり!」 僕はそう言いながらも、瑠璃の笑顔に見とれていた。あの頃と少しも変わっていない。そう思った。 「こんなフリーな状態で2人で歩くのって初めてだね!」 「うん!確かにね…」 その後は、公園を出て、街で買い物をしたり、2人で食事したりしていた。しかし、そうこうしているうちに、もう夕方だ。なので、待ち合わせ場所に戻って話していた。 (ここで、自分の気持ちを伝えなきゃ。) ずっとそう思っているが、言葉に出せない。そして、最後のチャンス。 「ねえ…ちょっと話聞いてもらってもいい?」 (よし、言えた!) 「あのさ、転校したときに、君の家まで行った理由って、わかる?」 言葉のチョイスが下手なのはわかっていたが、それでも自分の気持ちを伝えたかった。 「え?昔からの友達だったからじゃないの?」 「まあ、そうなんだけど…本当の理由があって…」 「もう、スパッと言ってくれない?」 「わかった。本当は、君が、好きだから。」 僕は続ける。 「じゃあもう帰るね!バイバイ!」 僕が帰ろうとするのを、瑠璃は止めた。 「ちょっと待って。私も今日会いたかった理由言いたい。」 「なに?」 「私も、架瑠が、好きだから。」 一瞬、心臓が止まったと思った。その一瞬の間があったあと、2人は笑顔になる。 「はぁー。今日言えてよかった〜」 「私もだよ!」 「これからは、友達じゃなくて、恋人、だね!」 「そうだね!」 そう言って今日は終わった。 そして、ここから僕たちの新しい旅が始まった。
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