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昔話
「ねえ。みぃ」
「なに?」
「あのさ。床の間にあるあの市松人形あるじゃない?」
「ええ」
「あの人形さ、僕ちょっと苦手なんだよね」
「そう?私は別にそう思わないわ」
「だって、見た目は可愛い人形なのに凄い野太い声で話すんだよ」
「そうね。そのギャップは凄いわね」
「そうでしょ?それに、今回、猿君と熊君が日引のお婆ちゃんの手伝いに行かされた時も心配してなかったしさ」
「アレは二人が悪いのよ。喧嘩して大切な箱を壊しちゃうんだもの」
「そうだけど・・・」
「ソータは優しすぎるのよ。あまり考えすぎると禿げちゃうわよ」
「僕は、家だから禿げないよ」
「瓦が取れちゃうかもしれないじゃない」
「そんな・・・」
(ソータとみぃに関しては「僕って・・・だったんだ」を参照してください)
温かい午後の日差しが差し込む部屋の中で、黒猫のみぃと家のソータがこそこそと話をしている。
ここは、日引邸。
平屋の日本家屋で、日引という霊能者が一人で住んでいる。年齢は作者の私にも教えてくれないので分からない。
普段、庭いじりをしたり好物の大福とお茶を飲み、日がな一日をゆっくりと過ごしているのだが、たまにひょっこりと客がやって来る。その客は、水島がいつも連れてくるか水島の友達のどちらかの客。
おかしな事が起きている。助けてほしいという客だ。
この水島というのは、不動産屋に勤める青年である。ある事がきっかけで日引と知り合いになって以降、日引の力と人柄に魅せられいつも家にやって来る。
「こんにちは~」
ほら、今日も来た。
仕事の途中でも構わず来るこの水島は美男子。俗に言うイケメンと言う奴である。性格は温厚だが、困ってしまうのは無類のオカルト好き。不思議な事には何にでも首を突っ込みたがる。
しかし、とても素直な青年なので日引も気に入っているようだ。
「日引さ~ん。お邪魔しま~す」
間延びした声で挨拶しながら、家の中に入って行く。
日引は、いつものように和室でゆっくりとお茶を飲みながら、水島を目だけで迎える。
「あれ?日引さん今日の着物はどうしたんですか?真っ白なんですね。切腹をする時に着る装束かと思いましたよ」
いつも色柄がついた着物を着ている日引が、真っ白な着物を着ている事に水島は驚いて聞いた。
「ああ。これね。今日はこれを着る日なんだよ」
「着る日?どういう事です?」
「今日は「おいちの日」なのさ」
「おいちの日?なんですか?それ」
「ああ、みずっちに話してなかったね」
そう言うと、日引は残りのお茶を飲み干した。水島はそれを見ると、承知とばかりに台所で新しいお茶を入れ手土産に持ってきた大福を一緒に出す。水島は、日引のお茶入れ係なのだ。ふと、床の間を見ると飾ってある日本人形の隣に花瓶に活けられた真っ赤な椿のような花がある。
「あれ?日引さん。この花随分大きな花ですね。椿ですか?」
「それは、シャラの木の花だよ」
新しいお茶が入った湯飲みを手に取り、日引はゆっくりと話し出した。
「今日はいい天気だ。みずっちは何の用出来たんだい?」
「え・・何か面白そうなことないかなぁなんて思って・・ハハハ」
ぽりぽりと頭を描きながら、水島は笑った。
「そうかい。暇なら昔話をしてあげようかね。昔昔、栃木県のある村での出来事なんだけどね・・・」
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