桜と僕

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くらい心から引き上げてくれるのも 落としてくれるのも すべてあの桜の木だった。 いつからここにあるのだろうか。 小高い丘の上にぽつんと1本の桜の木 そこから見渡す景色はとても素晴らしくて 時間ごと季節ごとにそれぞれの顔を見せてくれる そしてそれは僕の心とリンクしている そうとしか思えないほど 優しく温かく、ときに厳しく冷たい そんな桜の木が僕は大好きだった。 引越しできたこの街に馴染めず 人のいない所を求めて 上へ上へと進んで行った。 ずっと下を向いて上へ進んでいた。 風と共に舞落ちた桜の花びらにつられるように 顔を上げた。 満開の桜が僕の心をつかんで離さなかった。 急いでかけ登り 桜とその先に広がる景色に涙が止まらなかった。 僕の心を一瞬にして解放してくれたこの場所は 大切な場所となり、以来何かあれば いや何もなくともそこにいた。 あの風景をあの一瞬を 閉じ込めておきたい。 あの抜けるような青空と吹き抜ける優しい風 満開の花びらが揺れて舞って 僕に降りそそぐ 風が強く吹けばまるで花びらに 抱きしめられたようで 柔らかな空気に心が凪ぐ。
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