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2.
確か、家族で旅行に来ていたはずだ。
夢の中でうなされながら状況を把握する。
温泉旅行に来ていたはずだ。それが何故求婚されている?
どこからが夢なのか分からない。父は? 母は? 兄は何処? 今はいつなのだろう。
違う、両親は仕事の為に先に帰った。もう一泊するはずが出来ずに帰った。兄はそもそも初めから参加していない。彼女だけが取り残された。
彼は誰だ? 約束とはなんだ? 彼女は彼に会った記憶など知らない。
彼等兄弟の写真を見せられたが誰の事も知りはしない。
ああ、何だ人違いか。夢か。いきなり求婚される覚えなど彼女にはなかった。
薄らと目を開けたそこは見覚えの無い空間。滞在していた宿とも違う。
寝心地が良い柔らかな布団に包まれ、もう一度まどろみの中に落ちてしまいそうな意識を保ち体を起こす。
ご丁寧に衣服は脱がされ、着心地は良いが露出度の高い黒のネグリジェを身に纏っていた。
「……」
彼女自身では絶対に買わないし身に付けないであろう寝衣を眺め、それでもまぁべつに誰に見られても恥ずかしがるような歳でもない、と思っていた。
扉の無い入り口は直接下に降りる階段に続いているようだった。階下からははっきり声が聞こえる。
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