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4.
アーケード街。母に手を引かれ二人でショッピングを楽しんでいた。
向こうから同じように父に手を引かれた兄が嬉しそうにハヤセを見つけて駆け寄ってきた。
懐かしい記憶。昔はよく家族で出かけていた。色褪せない優しい記憶。
「――兄さんがいきなりあんなことするから!!」
「ハヤセが可愛いのがいけない」
「だ、大体! 恋人でもないのに、なんでチューするんだよ!!」
「恋人? 何を言ってる。ハヤセは未来の私の妻だ。問題はない」
「あるよ!! まだ妻でも恋人でもないじゃん!!」
全くもってその通りだ。夢の中まで聞こえてくる言葉にハヤセは同意していた。
フカフカのソファーの上にドンと座りハヤセの髪を愛おしそうに梳いている兄に対し、何を言っても無駄だと唇を噛みしめてレニは頭を悩ませていた。
そんな兄の膝に頭を寄せ毛布を被せられスヤスヤとハヤセは眠っている。あまりにも無防備なその姿にレニは心配しかない。
あどけなくまるで警戒心のない寝顔。自分が守らなければとレニは思う。
「ハヤセが私を愛してはいないと……?」
「いや、だって、兄さんの話とまるで違うじゃん。ハヤセさん兄さんの事知らないみたいだったし、それに結婚とかいきなり言われても……。大体なんで兄さんがダメだったら俺やちぃ兄と結婚させるんだよ。あ、その、ハヤセさんの事はまだよく知らないけど、可愛いなって思うし、守ってあげたいとも……」
レニは頬を赤くさせ語尾を弱弱しく話した。
「ハヤセをやるつもりはないが、ハヤセがお前を選ぶならそれは仕方ない」
ハヤセの頬を指で撫で彼は嫌そうな顔でそう言った。
あまりにも露骨に嫌そうな顔をする兄を見て、レニは先ほどまでの高揚感もなく頭を押さえた。
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