第6章 背徳のマッドサイエンティスト

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 果たしてそこには腕組みをした白衣姿の少女が壁にもたれかかって立っていた。  腰辺りまでの長い黒髪に、小動物を思わせるようなくりくりとした濃い黒色の瞳。きりっとした顔立ちは釣り目でやや厳しい印象を受ける。何か不快なことでもあったかのようにむすっとした表情で、引き結ばれた唇は「へ」の字を描いている。  そして何より目を引くのがその身長の低さだ。合うサイズの白衣がなかったのか、白衣の裾が地面に着きそうだ。 「あ……桜宮さん……」 「えっ」  先程まで議論の渦中にいた人物が突然目の前に現れた。気まずい雰囲気が辺りを包む。その沈黙を破ったのは他でもない桜宮芽依本人だった。 「一部そうじゃない人もいるが、初めまして。理学部生物学科の修士一年、桜宮芽依だ」  堂々と腕組みをしながら言い放ったその言葉には貫禄があった。 「ああ、どうもよろしくお願いします……。私は」 「知っている。神楽坂愛里と福豊颯太だろ」  そのままお茶室の中に入ろうとしたが、芽依は足元に視線を下ろした。 「ああ、靴を脱ぐのか……」  芽衣は靴下になるとお茶室の中に入って来た。 「あれ、レイアちゃんは知り合い?」  お茶室の扉からひょっこり顔を出したのは林原だ。どうやらお茶室まで芽依を案内してきたのは彼のようだ。 「いやー、そうなんですよ、私のサークル長でして、あはは……」 「そうなの? ま、俺は笹島先生に呼ばれてるから後は任せた」  去っていく林原とちょこんとレイアの隣に腰を下ろす芽依。この場にいる誰よりも背の高いレイアと誰よりも背の低い芽依。どうしても身長差が気になってしまう。 「じろじろ見比べるな」  視線の意味に気付いたのか、芽依は憤慨した様子だ。 「あ、いえ……すみません」  愛里の方が一年先輩のはずだが、芽依の言葉遣いと態度に思わず恐縮してしまう。 「まあいい。というわけで、さっきの話に戻るが、私が福豊颯太を求めるのはその不幸体質が理由に他ならない。さすが、見事な推理力だな。私の存在に気付いてこうしてスパイを送り込んでくるのもさすがだ」 「はあ」  何を言っているのかさっぱりである。
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