第一章 運命の輪が回り始めた

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 何か、僕の方から話題を提供できればいいのに。  そんな風に、いつも考えていた。  お仕事は、何をなさっておいでですか?  最近、何か映画をご覧になりましたか?  どんな音楽を、お聴きになられますか?  しかしそれらの話は、彼の前に出るといつも言い出せないでいる。  ついつい、緊張してしまうのだ。  男がコーヒーを干してしまうと、樹里は決まって肩を落とした。  また今日も、彼のことは何も解らなかった。  そう、残念に思った。  カフェの常連、だが謎の男。  せめて名前だけでも。  そして今日も聞き出せないまま、樹里は彼の背中を見送った。  その名は、綾瀬 徹(あやせ とおる)と樹里が知るまで、そう時間はかからなかった。
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