第一章 運命の輪が回り始めた

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 バイトを終え、家路につく樹里の足取りは重かった。  家庭は、彼にとって居づらい場所なのだ。  父、母、高校2年生の弟。  三人ともαの人間なのに、樹里だけがΩ。  そのため、ファミリーカーストの底辺にいた。  父は、しばしば樹里に暴力をふるう。  母は、見て見ぬふり。  そして、弟は。 「兄さん、小遣いくれよ」  帰宅した樹里に、開口一番そう言ってきた。 「そんな余裕、ないよ」  高校を中退してバイトを始めた樹里は一人前として、家に生活費を入れるように言いつけられた。  バイト代の10万円の半分、5万円。  交通費で月に1万は飛んでいくし、携帯の使用料や発情抑制剤の購入、そのほか雑費でぎりぎりの生活だった。  弟にお小遣いをあげる分のお金など、無いのだ。
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