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「先代の顔に免じて、今まで融資を続けていたのです。それが、解りませんか?」
それに、と徹は真顔になった。
「私は、先代ほど甘くはない」
見たものすべてを震え上がらせる、徹の一睨みだった。
まさしく、極道の眼。
店長は土下座したまま、床に突っ伏した。
「この土地は、いただいて行きます」
口調は丁寧だが、それは死刑宣告にも似た響きだった。
不機嫌なまま、徹は店を後にした。
「樹里を連れてきて、良かったな」
彼と昼食を共にすれば、この気分も晴れるだろう。
ほら、もう私を見つけて駆けてくる。
可愛い、樹里。
私の、樹里。
さあ、ここにおいで。
抱き留めてあげよう。
「綾瀬さん、危ない!」
何、と徹は歩みを止めた。
そこへ、樹里が渾身の力で抱きついて来た。
「綾瀬ぇ! この、ヤクザ者がぁあ!」
後ろから、店長が徹を追って走って来ていたのだ。
そして、その手には包丁が握られていた。
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