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 ひらひらと泳ぐ斑模様の美しい金魚を、去年の夏祭りに一匹もらいました。  その日はとても蒸し暑く俺の隣には不機嫌なアイツの姿がありました。  金魚をすくうことが出来たなら、もう一度アイツが笑ってくれるような気がして、俺なりに頑張ってはみたのですが――  結局、俺は一匹も金魚をすくうことが出来きませんでした。  アイツが無言で立ち上がります。  俺もその後を追いかけようと重い腰をあげました。すると金魚屋の店主に呼びとめられます。 『兄ちゃん』  店主の皺くちゃな手には金魚の入った袋が握られていました。 『兄ちゃん、こいつは幸福金魚って言って、きっと兄ちゃんを幸せにしてくれる』  豪快に笑う店主に俺は軽く会釈をして金魚を受け取るとアイツを追いかけました。  汗で張り付いたシャツが気持ち悪かったのを覚えています。  俺とアイツは静かな駅へと歩いていきました。  お互いの気持ちが離れていくのはわかっていました。だからさして驚きはしませんでした。  『幸福』と名のつく金魚を手にしてアイツを失う日となったとしてもーー……
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