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『世界中の誰よりも貴方の幸せを願っているわ』
笑顔とともに渡された幸福の花束は、閉まってある――
「春君」
名前を呼ばれて我に返る。いつの間にか洋一と杉山のじゃれあいが終わっていた。
「さすがに冷えるから戻ろう?」
洋一に優しい眼差しを向けられて春の顔が綻ぶ。
「はい」
春は雨に愛された男の元へと駆け寄った。
洋一の帰りがここ最近遅い。
そのため春は携帯端末を握りしめソファで横になって待っているのが日課になっている。
洋一との生活は日々穏やかで文句などつけられないほどに幸せだ。
それなのに見えない涙が春の頬を伝う。
寂しい。苦しい。もどかしい。
なにもできない自分に苛立ちながらも、洋一を待つしかできない時間が春は苦手だ。
「あ……」
洋一からの着信が入った。
洋一からの連絡が入るときは大概決まっている。
「もしもし……」
『洋一です』
携帯端末には洋一からの着信だと表示されるので、春は洋一と分かって通話をするのだが、洋一は必ず名前を名乗る。
そしてほんの少しの間が空き、『今日も遅くなります』と言うので春は頷く。
「はい。お仕事頑張って下さい……」
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