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ここで帰ってきて、とは言えない。寂しい、とも言わない。
『必ず戸締まりを』
「はい……」
洋一の負担になることだけはしたくない。
洋一との電話を終えると春は寝室へと向かう。
ひとりぼっちの冷たいシーツに顔を埋めると人肌を求めるように毛布に包まれる。
いつからひとりで眠ることが寂しくなってしまったのだろう。
もう子どもではない。ひとりで眠ることだって出来る。それなのに未だ手を繋ぎながら一緒のベッドで眠り、洋一が居ない日は洋一の温もりが恋しくて仕方ない。
春は静かに瞼を閉じるとため息を吐く。
「ずっと子どものままでいられたなら良かった……」
眠りのまどろみへ落ちる最中、母を思い出す。
『春、あなたに会って欲しい人がいるの』
薄紅色に頬を染めて恥ずかしそうに母は春を抱きしめた。
母からは優しい匂いがして柔らかい肌が春を温かく包み込む。
『母さんね、その人が居てくれると温かくなる……心から笑えるの』
そう言って微笑む母に春も心から笑った。母が幸せなら、と。
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