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洋一の胸へ顔を埋め、いつもどおりに手を握った。
あたりまえの温もりは幸福を教えてくれて泣きそうになる。
もうすぐ告げるべき別れを今だけは忘れようと思った。
洋一が側に居ることを許してくれたから、春はここに居ることが出来た。
それ以上は望んではいけないと自分に言い聞かせてきた。
それでも傍にいるとどうしようもないくらい胸が苦しくなって、呼吸もできないくらいに嬉しい衝動に駆られる。
この想いを何とかしようとすればするほど、埋まらない寂しさに襲われる。
この想いは伝えてはいけない。なぜなら幼い愛情を求めれば洋一を困らせてしまうことになるから。
春は震える唇をそっと何度も噛み締め、白腕にくい込むほど爪を立てる。痛みが軟らいでしまう前に洋一の元を離れる必要があった。
「今日はありがとうございました」
「まさか、俺に相談してくるとはね。ホント天使ちゃんってばいい度胸してるよ」
「はい。すみません……」
桜が咲き始めた公園のベンチに杉山が座ったので春も遅れて腰を下ろした。
春は四月から大学生になる。一人暮らしをする意思を杉山に相談をして今に至るわけだが難航していた。
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