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常識的に玄関の訪問音が鳴らない時間だ。それでも鳴ってしまっているので出迎えないわけにはいかない。
「うっ…ん」
相田 春は目をこすりつつ隣で眠っている義父、相田洋一を起こそうとしたがびくともしない。
仕方なく春が玄関へ行こうとすれば、洋一に引き戻された。
洋一は寝ぼけているのか春の髪に鼻先を埋め、動くことができない程強く抱き竦められる。
この心地よい温もりに甘えて眠ってしまいたくなるが、この時間に来訪音を鳴らすのだからよほどの事情なのかもしれない。
寝付きの良い洋一を羨ましく思う。幸せそうに眠る洋一を起こしてしまうのはかわいそうだが春は洋一の胸を揺らす。
「んっ……」
眠そうに目を細める洋一から掠れた声が漏れた。
「ど、したの?」
普段前髪をあげている洋一が髪を下ろしているときは別人のような印象を受ける。
前髪をかきあげて自分の方へ向き直ってくれるといつもの洋一のようで安心ができた。
「あの、先程から……」
待たされている客人が痺れを切らしたのか来訪音を連打し始めた。
洋一が深く溜息を吐く。
「……ごめん、気づかなかった」
洋一は渋々と立ち上がる。
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