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不安に揺れる春の視線を感じとったのだろう。洋一が春の頭を撫でる。
「春君がそんな顔をしなくていいから」
額を押さえ仰向けでぐったりとしている杉山に洋一が冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを持ってきて差し出す。
「水を飲んで少しは酔いをさませ」
すると杉山の腕が洋一の太腿に巻き付いた。
「洋一ってばやさしいぃ」
「お、おいっ」
いきなり洋一の足にしがみついた杉山はぬいぐるみを抱えた子どものように眠ってしまった。
洋一は杉山を起こさないように絡んだ手をどうにか引き離すと疲れたようにフローリングに胡座をかき、杉山に断られたペットボトルをテーブルに置いた。
一息吐くと「酒癖がどうも最悪だ」と同僚兼友人の迷惑行為を笑う。
春が寝室から余った毛布をとってくると杉山へと掛けた。
「ありがとう」
春は首を横に振る。洋一に甘えたくなる理由がなんとなくわかるからだ。
春は洋一の隣に座ると大きな手を握る。
「春君?」
触れ伝わる温もりが温かい。
母が他界して十年、以来眠る時には必ず洋一が手を握ってくれた。おまじないのように安心する。
春は重くなってきた瞼をゆっくり下ろす。
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