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息を整えつつ杉山は春へ飲みかけのペットボトルを差し出したが、春は首を横へと振った。
杉山は肩を竦めると、浅く腰かけていたベッドから立ち上がる。
「天使ちゃんと洋一は相変わらず一緒に寝ているみたいだな」
事実なので頷き、春は傍らに眠る洋一を見つめた。
「なあ、天使ちゃんはこれから洋一とどうなりたいの?」
洋一を想うと胸が苦しい理由を自分の口から言うのは憚られた。
「僕……」
煮え切らない春に杉山は腕を組み「ここからは独り言」と話を始めた。
「俺ね、洋一が君を引き取ると言った時やめろと言ったわけ」
杉山の瞳は真剣に春を見据える。
「洋一に君は眩しすぎる。今でもこの気持ちは変わらない」
それ以降の杉山は勝手に寝室へ入った事の謝罪以外は何も語ろうとはしなかった。
春は絡まった糸のような胸に残る違和感を労るように震える指先で洋一の指に触れ、呟く。
「僕はどうしても洋一さんと離れたくないんです……」
寂しさが和らぐのは錯覚だが、洋一に触れたぬくもりが優しくて涙が零れそうになった。
桃色に色づく前の桜並木に小雨が降り注ぐ。
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