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「わざわざ雨の日に出かけるのも億劫なのに買い物へ行ったと思ったら、今にも散りそうな桜を散歩がてら鑑賞とか馬鹿じゃないの?」
整った顔を歪め文句を告げる杉山は歯を鳴らし肌寒さを訴える。
「勝手についてきたのはお前だろ?」
「いや、だって、ま、暇だし?」
「せめて買い物袋でも持てよ」
二人の関係が少しだけ羨ましい。
「いやぁ……しっかし、お前って雨男だよな」
「人の話を聞け」
春と洋一ではこうはならない。
「やーい。やーい。雨男」
「小学生か……」
――雨男。
母の結婚式を思い出す。早朝、晴れていた空が急に曇りだして、大雨になったのだ。
傘を持って来ていないのにと招待客が騒ぐか、幼い春もせっかく新しく買ってもらった靴が汚れてしまうと苛々した記憶がある。
洋一はよっぽどの雨男なのか洋一を知る端々から「雨男」という言葉を耳にした。
洋一が猫背になり俯くなか、母は太陽みたいに笑って、洋一の背中を叩くと『神様からの祝福の恵みよね』と言い切った。
憂鬱な雨をものともしない母は花束を次の幸せになる人へ投げ渡した。
『春――』
春は母にほんの少しだけ嫉妬したのを覚えている。
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