4.お兄ちゃん

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4.お兄ちゃん

 兄と話すのは、三年ぶりだ。大学で上京して以来、あまり電話もしていない。仲が悪い訳ではないが、年が十ほど離れており、共通の話題が多くないのだ。  でも、大好きなお兄ちゃんだ。力の差は歴然で、けんかになると一方的にいじめられたけど、なんで大好きなのだろうか?  兄は、関西で働いており、正月と盆の時期に、九州の実家へ帰る。  一方、自分の方は、毎年その時期にバイトしていたので、実家で兄と鉢合わせすることは無かった。  そこで今年は、正月にバイト休んで実家に帰ってみたところ、目論見どおり、兄がいた。 「正月に帰ってくるの、珍しいな?」 「うん、今年は兄ちゃんに相談事があったからね。帰ってきた」 「何だ?」 「お金が無いんだ」 「俺もないぞ。というか、あるけど、生活で必要な分しか持ってないから、お前にあげる分はない」 「いや、くれと言っている訳じゃなくて、何か良い方法がないか、アドバイスがほしい」 「何だ、そういうことか。ならば、うーん、方法は二つあるな」 「えっ? どんな方法?」  バイト先の裕子と、友達の洋助に相談しても、有益な答えは得られなかった。しかし、ついに何かを得られそうだ。正月に帰ってきて、兄に相談してよかった。 「一つ目は、ひたすら頑張ることだ。金を稼ぐ方法を知らないなら、必死で調べたり考えたりして、探し出す。知っているなら、ひたすらその方法を実践することだな。お前は何か、金を稼ぐ方法を知ってるか?」 「バイトはしてるけど」 「じゃあ、ひたすらバイトして稼げばいい。もっと良い方法がないか、必死で考えながらな」  それは、俺が今やっていることじゃないか。参考にならない。もう一つの方法に期待するか。 「もう一つの方法は?」 「それは、あきらめることだ」 「は?」 「お金がないと、悩み続けるより、無いものは無いと、あきらめた方が、悩まなくていいから得よ。少しまじめに言うと、悩み続けて解決しないものは、現実的に実現が難しいものなんだ。今の状態を受け入れることが出来たら、もう悩まない。つまり、問題は解決したということだ」 「うー、要するに一つ目の方法が、ひたすら頑張るで、もう一つの方法が、あきらめるってこと?」 「おっ? もの分かりが良いじゃないか。頑張るとあきらめる、これはどんな相談を受けても使えるぞ」  兄に聞いた俺がバカだった。せっかく、正月帰って来たのに。もっと、お金を持っていそうで、賢そうな人に聞いてみるか。親には、こんな事は聞きたくないしな。誰かいるかな?  自問自答してみると、一人思い浮かんだ。
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