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目覚めと始まり
何かが私を呼んでいる、そう思った。
何も見えない闇がただ広がっている。その奥から呼ばれている、そんな気がした。
私はそちらへと歩み寄ろうとするも、おおよそ身体と呼べるようなものを感じない。だが不思議と違和感は無く、ただ意識だけがそこへと近づいていく。
動いているのかさえ分からなかったが、確実に近づいた私は、そこへと歩み寄った時、目の前に光が広がった。
あまりの眩しさに、一瞬目が眩んだような気がしたが、その空間に慣れてくると自分の前に一人の少女がいた。
「神様……?」
呆然としながらも私を直視し、そう言った少女の姿が、光り輝く女神に見えた。
銀色に輝く長い髪が風を受け大きく広がり、私を見つめる瞳は深く黒い夜空の様に煌めく。肌の色は日焼けを知らない白い肌。
まだ幼い少女のようで、私の知る知識の中では背丈は低く、纏う衣服はいわゆる日本の神社の巫女さんの衣装である。
よく似ている。私はそう思った。何が何に似ているのか思い出せ無いが、それだけが脳裏に浮かんだ唯一の思いだった。
『私は神ではないよ』
私は声を出したつもりだったが、それは声にならなかった。
「じゃ、じゃぁ精霊さんかな……?」
それにきょとんとした顔で小首を傾げ、そう呟く。私の声にならない言葉は通じた様だ。
『その様なものでもないね、にん……』
そこまで口にして、私は始めて気付いた。記憶の中に自分が何者で、何故ここにいるのかが、何も分からない事に。自分は人間だ。そう言おうと思ったのだが、人間であったと言う記憶すらない。だがそう口にしようと反射的にしていたのだから、人間というものに近しい存在であったのだろうと感じられる。
「にん……にんじん?」
『何故そうなる、私は野菜なのか!』
「い、いえ、あのその、あまりに神々しく輝かれているのか、それともお身体がないのか、お姿を拝見できませんので……」
どうやら私は彼女には見えていない様だ。
『では何故私の事が分かる?』
「感じるというか、そこにおられるという事は分かるのです」
困った風な顔をしてこちらに視線を送り、顎に手を当てた。
『そうか……』
私はいささか声が沈んでいた様な気がした。自分の記憶がない事への落胆なのか、それとも姿を持たない事への淋しさが、そうさせたのか、理由は分からなかった。
「でも、貴方様は私の声に応え、ここに来てくださったのですよね」
その明るい声と笑顔に、私は救われたのかもしれない、これが私と彼女の出会いだった。
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