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穂乃華は頭をかきむしり苛立ちを露わにすると、杯に酒をつぎ乱暴に飲み干す。
「他力に頼らなくても大丈夫なように、月夜本人で何とか出来るようにならないのか」
「出来るようにはなるよ。でもそれは本人次第さ。月夜も努力はしてんだけど、こいつ感性が破滅的に無いんだ。とにかく覚えが悪い。うちも根気よく教えてるんだが、全、然、駄目だな。いろいろなことが限界を迎える前に、月夜自らで力を制御出来るようにしたいんだがねぇ」
親指を立てたその手を、私、もとい月夜へとその指を向け、項垂れるような感じで目を細め、ため息交じりに言い放つ。
「いや、何となく分かる気がする……。だが、なんとかせねば今後、生命にも関わることになるんじゃないかこれは」
座っていた椅子から私は身を乗り出すと、少し焦りの色を見せ、声を荒げてしまう。
「わかってるさ、そうも言ってられない現実があるからね。神力の制御が出来ないというだけじゃ無く、月夜の体質は荒御魂を引き寄せちまうんだ」
「は、はぁ!?」
思わず穂乃華の言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。
「だから、こいつの身の回りには怪事件が絶えないんだ。そのくせして自力で払うことは出来ない。全くやっかいなこった。なるべくうちが側に居るようにはしてはいるけど、こっちも仕事や生活があるからねぇ」
そこまで話した穂乃華は、人の悪い笑みを見せこちらを見つめ返す。
「いや、でもうちよりも、うってつけの者が現れたから、これからはそいつに頼むとするかな」
そう言うと、いかにも楽しいといったようすで声高らかに笑い声を上げる。
「あんっ、どいうことだ」
凄く嫌な予感が私の頭をよぎり、背筋に冷たい物を感じた。うってつけの相手?おいおい、まさか。
「あんたならずっと月夜の側にいられるんだろ、これ以上、最適なやつはいないじゃないかい」
「ちょ、ちょっと待て私は、神力なんてものが何なのかも分からないし、大体私は神力なんてものを持っていないぞ!」
冗談じゃ無い、体の良い押しつけじゃ無いかこれは!
「その身体があるじゃないか、何をいってんだい」
いやいや待て待て、嫌な予感しかし無いというか、もしかして
「あんたがその身体を使って、神力の扱いを覚えればそれで万事解決じゃないか」
やっぱりか……その言葉を聞いた私、もとい月夜の身体はよほど間抜けな顔をしていたのだろう、穂乃華は腹を抱えて笑い声をあげる。
「神力を制御し祓えなきゃ、月夜は今に命を落としかねない」
ひとしきり笑った後、大真面目に表情を改めると、頬杖をつきながらこちらへ真剣な眼差しを向ける。
「それも考慮すると無理にでも覚えてもらわないといけない。まぁ、この前月夜に強く言ったのは、本人に言ったのもあるけど、同時にあんたにも気づいてほしいって思いで、警鐘を鳴らす意味もあったからね」
「私に?」
私は自らに人差し指を突き立てると、呆けたように聞き返す。
「守ってやって欲しいんだ月夜を――あんたにならできると思うんだ」
そう言い放った穂乃華は、真剣な眼差しで射貫くように私を見つめてくる。
「買いかぶられても困るよ、私はこの子に何も出来ていない。何もしてないし、何も出来てないんだ、不甲斐ない話だよ」
私は穂乃華の視線を嫌い、思わず視線をそらし逃げるように言いつくろった。
「まだこの世界に慣れてないってのもあるだろ。多分これから色々と気づいていくことがあるだろうし、分かることもあるだろう。その時にその事がこの子にとって重要な意味を持つことになる」
その言葉には、何か願いにも似た思いが詰まっている様な気がして、思わず穂乃華を見返すと、優しげな笑みを見せていた。
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