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魂という謎
「何より私はこの子とずっと一緒にはいられないからね。だけどあんたはずっと一緒だ」
そう言った穂乃華は、遠い目をして何かを考える風だった。
「私が言えるのはここまでだ、次はあんた自身の事が聞きたいね。全く記憶がないわけじゃ無いんだろ、わかっている事だけでいい、教えてくれないかい」
穂乃華の言葉に、私は顎に手を当て少し思案する。
「そうだな、月夜の事をここまで思ってくれて、私の事を見抜いた人だ、いいだろう。でもほとんど情報はないぞ」
「ああ、それでいい、教えてくれ」
穂乃華のその言葉に軽く頷くと、観念して口を開くことにした。
「私自身の記憶は正直何もない、男だったのか女だったのかさえ覚えていないんだ」
「まぁ、今の時点で、人ですら無いものな」
「そうだな、間違いない」
少し悪戯っぽく微笑まれ、私は思わず相貌を崩し軽く笑いを噴き出す。
「さっきも少し話したが私の中に知識としてある世界は、この世界とよく似た、それでいて全くの別世界なんだ。そして今もその世界とは、どうも意識の中で繋がっているらしいんだ」
「別世界?その世界と繋がっている?」
怪訝な表情をして、穂乃華が見てくるのでそれに対しゆっくりと頷く。
「そうだな、まず世界の話しだが、簡潔に話すと地形や地名は酷似しているのだが、この世界のような神力や神術は無い。だから、この世界とは違う世界に元々居たのだろうということに思い至った」
「別の世界ねぇ。神力と神術が無いとなると、なんつかそれってすっごい人力で不便そうだな」
私の説明に、神術の無くなったこの世界を思い描いたのか、あからさまに嫌な顔で机に片肘を付く。
「神力とよく似たものはあるから、お前が思っているほど人力じゃないぞ」
まぁ、百年とか二百年前だと穂乃華が想像した世界なんだけどな。
「へぇ、そうなんだ。どんな力なのか気になるね」
「まぁ、神力とよく似たその力を使って、全世界で知識共有できる情報網があっちの世界にあるわけなんだが、たしかこっちの世界にもそういうのあるよな。お前が使っているのを何度か見た気がするからな」
そう言って、私は右手で目の前の空間を触るような動作をし、それの説明をするように促す。
「ああ、神通網のことか。たしかにこれのおかげで簡単に情報は手に入るし、今じゃ、聡慧鏡が無くてもいつでも使えるようになったしな」
「神通網?聡慧鏡?」
いくつかの聞いたことのない単語に私は眉根を寄せる。
「ああ、神通網は、さっきあんたがいっていた情報網のことだ。聡慧鏡の方は、複雑な術式が組み込まれている鏡とよく似た物で、情報の書き込みや処理をさせ、映し出す道具のことだ。鏡に似ていることから賢い鏡という意味で、そう呼ばれている」
「なるほど、その神通網とやらは私の居たと思われる世界の情報網とよく似ているな」
穂乃華の言ったことを頭の中で反芻し、思い描くことで二つの情報網が酷似している事を再認識するに至っていた。
「聡慧鏡は大きくて持ち運ぶのに適してなかったんだが、今は若干能力は落ちるけど、携帯して自分の脳裏や、目の前の空間へと映し出せる物がある。うちが今使っているのはこれだね」
そういうと穂乃華は自分の頭に刺さっている簪を指さす。
「んん、それはなんだ?」
「聡慧簪っていうんだ、んでもって、こうして使うのさ」
そう言って簪に一度軽く触れると、穂乃華の目の前に画像が繰り広げられていく。
「基本は自分だけが見えるように写すんだけど、他人が見えるようにも出来るわけ。そしてここにこうして文字を入れると、いろいろな情報が出てくるのさ」
実際に画像を触り、使い方を教えるように実演してくれる。
「なるほど、私の世界のものとよく似ているが、自在に操作できる分遥かに便利だな。私の頭の中にあるのもそれによく似たものだな。それのあちら側の世界版といった感じだ」
「なるほどね。じゃ、神通網で見れる情報とは違う物が見れるってわけなのかい」
「まぁ、そういう事だな」
私の言葉に対し穂乃華は納得したようで、両腕を組み面白そうに微笑んで居た。
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