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「さらに付け加えると、我ながら反則だとは思うのだが、あっちの世界にある物を引っ張ってくることも出来るようだ」
「はぁ?なんだいそりゃ、こっちの世界に無いような珍しいものが手に入るってことかい」
穂乃華は怪訝そうに、それでいて興味深そうにこちらを見つめてくる。
「平たく言えばそうなるな、だが制約がある。同価値の通貨が必要だ、だから無尽蔵に引き出せるって訳でわない」
「へぇ〜、逆に言えば金さえあれば持ってこれるって事だよな」
「まぁそうだな」
穂乃華は私の言葉に顎に手を当てながら、とても楽しそうだと言わんばかりに、何か含むような笑みを見せてきた。うむ、とても嫌な予感しかしないな……。
「なぁ、そっちの世界の酒出してよ、金は出すからさ。変わったの飲んでみたいし」
酒か、酒なのかこの酒豪め!だが、今、恩を売っておくのもありだな。
「……まぁ、いいだろう。ただこの事は他言せぬよう願うぞ」
「ああ約束するよ、こっちもせっかくの有能株の異人を、敵にする気は無いしね」
まぁ、この者は強欲というわけではなさそうだし、目の前の利に溺れ、裏切るようなこともなさそうだし、なにより月夜を心配してくれているし大丈夫であろう。
「この世界に、炭酸はあるか」
「炭酸?」
そう言うと穂乃華はおもむろに頭にある、聡慧簪に触れる。
「なるほど、同じ言葉で自然に沸いてる水にや、温泉があって肌にいいとあるな。これのことか?」
目の前に画像を広げ、そこを触れながら説明を加え、前のめりになってこちらを見た。
「そうだな、同じものと思って差し支えない」
「そっか、でも多分誰も知らないと思うな、一般的じゃないしね」
「ふむ、ならばその酒を出すか、あっちではかなり一般的な酒だ」
その言葉を聞いた私は穂乃華から銭を取ると、それを自分の意識の中で集中し、いわゆるインターネットの世界へとつなぐ。そこのネット通販サイトを探しだし、おもむろにビールを選択する。すると、等価交換するように手にある銭を消し、そこに缶ビールを出現させた
流石に冷えたもでは無いようで、私は少し怪訝な顔をする。
「んむ、流石に冷えていないか。冷えてないとうまくないのだこれは」
「冷やせばいいのか?」
穂乃華は私からビールの缶を受け取ると、不思議そうに缶全体を見回す。
「ああ、だがあんまり冷やすなよ破裂――」
『氷結』
おもむろに冷気を放った穂乃華の前に、ものすごい勢いで缶が破裂し、中身が吹き出し勢いよくそれを浴びた。
「おい、なんだよ爆発したぞ!しかもベトベトするし、騙したな!」
手にした缶を机に叩きつけると勢いよく立ち上がり、凄まじい殺気を宿した視線を送ってくる。
「話は最後まで聞け、あまり冷やすなと言っただろが!」
私は椅子に座ったまま冷ややかな視線を送り、肘掛けに肘を付きながら、あきれ顔で片手を軽くかざす。
『水流洗』
私の言葉に「ふむ」とばつが悪そうに言うと、両手を軽く広げ水を生み出し汚れを洗い流し、綺麗にする。
「もう一個出してよ」
と、金を渡してくるので、溜息をついて新しい物を一本差し出す。
「次は気を付けろよ」
「わーってるよ」
私の言葉に、憮然とした表情で缶を受け取ると、再び冷気を生み出してく。
『冷化』
次は手加減したようで、いい感じに冷えたようで満足したのか飲もうとするが、再び怪訝な顔を見せる。
再び缶を見回し「これどうやって開けるんだ」と聞いてくるので、仕方なく立ち上がり開けて渡してやる。
「お、うまいなこれ。酒もいいけど違うものもたまにはいいな」
私は、ご満悦に笑みを見せるそんな穂乃華に溜息をつくと、椅子に座りなおす。
「何のつもりだ」
その私の前へと、こちらの酒が入った杯を穂乃華が差し出してくるので、怪訝な顔で見返す。
「飲めるんだろ、飲みなよ」
「お前なぁ、この体月夜だぞ。十六歳なんだろ、未成年じゃないか」
やれやれと言い返すと、穂乃華は呆けた顔で見返してくる。
「ん?裳着はもう済んでるから成人だぞ」
「そういう問題じゃない、私の世界ではお酒は二十歳からと決まってるんだ!」
「でも、お前は酒の味を知ってるんだろ」
「みたいだな、味は想像つく……」
駄目だ、嫌な予感しかしないぞ……。
「じゃ、飲め」
「月夜は飲んだことあるのか、本人に確認せぬと……」
必死に抵抗しようとしたが話の途中にもかかわらず、穂乃華は含みのある笑いと共に押さえつけると、口の中へと無理矢理流し込んでくる。
「げほっ、げほっ。何をする!」
「うめぇだろ」
「……まぁな」
むせ返り涙目になりながら抗議をするも、楽しげに杯を手渡され、無理矢理、穂乃華に付き合わされることになるのだった。
「よお、月夜どうした顔が真っ青だぞ」
翌朝、遅い時間になって辛うじて起き上がった月夜は、おぼつかない足取りでふらふらとテントこと、天幕から出てくる。
「ほ、穂乃華さん……な、何故か、目が覚めたら頭が痛くて、吐きそう……うっ」
そう言うと口を押さえて、川縁に走って行く月夜。そして必死に何かを吐き出してく。
『す、すまぬ、月夜……』
そんな月夜を見送り、私は無い肩を落とす。
(流石にやり過ぎたな、ははっ)
『お主、私の声が分かるのか?』
穂乃華が私へ視線を送り、片目を瞑ると意識の中に直接話しかけてくる。
(ああ、昨日あんたの気配を捉える調整をしてたからな、周波が合えば聞こえるし、話せるのさ)
『器用なものだな』
そう言うと、二人してまだ必死に嘔吐し続ける月夜を見つめる。
(調整は得意なんでね、月夜はそっちはからっきしなんだよね、能力値は半端ないんだけどさ)
穂乃華へと視線を送ると、妹を見る姉のような、暖かで優しい笑顔だった。
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