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「やっぱり目立ちますよねこの服装は……」
二人は国分寺より西にある食事処に来ていた。
地元民の多い店で、仕事着や普段着の者が多く、若い娘も町娘風な簡素な装いである。数人居る着飾った主婦層も、精々単などを数枚重ね着している程度だ。
そんな中に大学寮の衣装は、簡略化された十二単とはいえ元が豪華な唐衣裳であり、否応なしにも目立ってしまうのである。
「気にしなきゃ大丈夫だよ。お姉さ〜ん、注文お願いしま〜す」
そう言って月夜に笑みを見せ、大きく手を挙げ店の店員を呼ぶように声を上げる。
「あら、大学寮の生徒さんね。素敵よねその衣装。古風な中にも新しさがあってとても良い装飾だと思うわ」
「ありがとうございます。基本設計さえ守っていれば多少は変更できるので、個人の好みも入れられるのが良いですよね。注文よろしいですかね」
「ごめんなさいね、注文は何になさいます」
「今日昼の洋定食を二つで」
「はい、承りました」
そう言うと、店員さんは奥に下がっていく。
「な、そんなに気にしなくていいって」
「そうみたいですね」
「それにこの衣装は結構みんな憧れてるんだ、むしろみてくださいってぐらいで丁度いいんだよ。まぁ動きづらいってのはあるから、うちはそこがあんまり好きじゃ無いけどね」
この世界の食事処は喫茶店のようなもので、こちらでも机と椅子というのが一般的なものらしい。
椅子に座り、穂乃華は両手を組みながら頬杖をつき、足を組んで片足をぷらぷらとしながら笑みを見せる。月夜もそんな様子に自然とほおが緩んだ。
「やっと笑った。お前はすぐ思い詰めるのが悪い癖だ。今はまだいい、そう言ったろ」
「ですか、でも今のままじゃ……痛っ」
一瞬塞ぎ込みかけた月夜は、おもむろにデコピンを食らう。
「だから今考えんなって、すぐ出来んのだろ。ゆっくりでいいさ」
「ははっ、そうですね」
少しむすっとした穂乃華に、月夜は乾いた笑みを見せる。
「そりゃそうと、今度の土日空いてるかい?」
「土日ですか、父様に聞いてみないとですが、今は閑散期にあるのでたぶん大丈夫でしょうけど」
月夜の週末は、家業の神社で巫女として手伝いをしている。五月には祭があるが、四月はまだ忙しくないようだ。まぁ、美濃国一宮の南宮大社ゆえ、多くの神職や巫女がいるので月夜が居なくても大丈夫なのだが。
「じゃ決まりだ、野営しにいこうぜ」
「野営ですか、私道具とか無いですよ」
「今から買いに行けばいいさ、岐阜の雪栖に行こうよ」
どうも話の端々から察するに、野営とはキャンプの事で、雪栖とはヒマーラヤの和訳、「雪の住処」から来ているようだ。あっち側(現実日本)の岐阜にあるスポーツ用品店のこちらの名称だろうと察しがつく。
私がこちらの世界に来て持っている能力の一つ、「元いた世界のネット検索」が使えるため、それを駆使したあっち側のネット検索より得た情報の受け売りなのだがね。
「私今金欠病なんですよ、まだお金が稼げる年齢では無いですし」
「道具はなんとかするさ、食品代だけ折半するぐらいならいけるっしょ」
「それぐらいなら……」
「よし、じゃ飯食ったら寮に戻って他の奴らも誘おうぜ、ここはうちが払ってやるからさ」
言うが早いか、穂乃華は即座に席を立つと外へ向かって歩いて行った。
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