野営は七人の愉快な仲間と共に

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「ここが野営場ですか、結構人がいますね」  どうもネットへの情報が拡散し、この大津谷(おおつだに)公園野営地は人気を博し、人で賑わっていた。あっちの世界でも同名のキャンプ場は県外から人が訪れるほど大人気である。という記憶が何故かある私はいったい何者なのだろうか……。 「お花見シーズンだからねぇ、ここも最近新しくなったから人気が上がってるんだよ。なんせ無料で早い物勝ちだしね」 そう話しながら荷物を運ぶ月夜と穂乃華へと手を振る一団がある。金華(きんか)達である。 「遅いですよ穂乃華さん、もうお腹が空きすぎて待ちきれ無いですよ」  金華は、お腹を押さえて腹ぺこをアピールしながら、悲しげな表情を見せる。 「真打ってには遅れてやってくるのさ、準備出来てるのかい」  ゆったりとそれでいて堂々とした足取りで歩きながら、皆を見渡し穂乃華は声をかけていく。 「ええ、バッチリですよ。もう火も炊いてありますからすぐにでも始めれますよ」 「よっしゃ、じゃ始めるよ。酒飲もうぜ、カンパイだ、カンパイ」 穂乃華はそう言うとおもむろに酒瓶を取り出し、杯に注いでいくとあぐらをかいて掲げる。 「かんぱ〜い!」 そう言うと皆が肉やら野菜やらを焼き始めていく。 少し離れた場所で一人、手のひらサイズのランタンを目の前にして、笑みを浮かべる月夜。 「どうしたんだ、にやにやしちゃって」  酒を片手に月夜へと歩み寄った穂乃華は、肩に腕を乗せ含み笑いを見せる。 「もう、昼間っからお酒くさいです穂乃華さん」 「酒飲まなきゃやってられんだろ、最近は祓屋の方が忙しくて暇が無いんだよな」 心底嫌そうな顔をする月夜に、穂乃華は笑いながら手にした杯の中身を飲み干す。 「あんた、野営は初めてかい」 「私、昔から人と過ごすのが苦手なんですよね」  穂乃華の言葉に少し顔を曇らせ、下を向いてしまう。 「対人恐怖症、だったけ」 「昔の話です、今はそんなことは無いですよ。ただ接し方がわから無いんですよ、あまり人と接したこと無いので」  そういって、月夜は少し離れたところ騒ぐ男達へと視線を向ける。 「ここにいる奴らはそんな事気にするような奴じゃ無いよ、楽しんだ者勝ちさ」 「そうだよ月夜ちゃん、どんどんくってさ、楽しもうよ」  穂乃華がそう言うと同時にその後ろから、男どもが一気に押し寄せ、お皿に一杯の肉を持って月夜の皿に入れていく。 「あ、ありがとうございます、夜にこのランタンを使うのが楽しみです」  月夜は一瞬気圧されたじろぐも、自然と笑みを浮かべ、心を開いたように私には見えた。 夕方を迎えランタンに火を灯すと、小さなサイズの天空はとても明るく光っていた。 大きなランタンには範囲こそ及ば無いものの、テーブルランタンとしては最適だ。 「凄い、小さいのに本当に明るいですね」 「はは、月夜ちゃんによく似てるね、小さいのによく頑張る子だから」  月夜の漏らした言葉に、金華は素直な意見を述べると、それに対し思わずはにかんだ笑みを見せる。 「私はそんないいものじゃ無いです、ただ止まると不安になるだけで」  そう言って思わず俯くと、何かを思い出したのか少し顔に影を落としていた。 日が暮れていく中、鍋をつつきながら皆で過ごしていたのだが、月夜は少し歩みを進め、少し離れた川沿いを注視し、なにか違和感を覚えたようにそこを見つめていた。 『どうした月夜、惚けた顔をして』  そんな様子に思わず私は声をかけると、はっと我に返りながらも表情を強ばらせる月夜。 「いえ、何か森の奥がざわついているような、不思議な感じがするんです」 『なんだそれは、危険な気がするな、戻った方がいいのではないか』 「そうですね、少し離れます」 私へとそう告げ振り返り、皆の方へ顔を向けた時、血相を変えた穂乃華の顔が月夜の目の前に広がった。そして、月夜は次の瞬間吹き飛ばされるような感覚を身体に覚え、背中を激しく地面に打ち付ける。 「馬鹿、何で気づかないんだあの憎悪はお前を狙っていたんだぞ!」 「え、憎悪……」  穂乃華がそう叫ぶと、先ほどまで月夜の居た場所を黒いものが通り抜ける。 『炎障壁(えんしょうへき)!』  一拍早く立ち上がった穂乃華は炎の壁を目の前に立てると、続けざまに現れた闇の塊を凪ぐ。 「月夜、構えるんだ。祓うよ!」 「は、はい」  立ち上がった月夜は、構えると手の中に杖を生み出す。 「こいつは少し厄介だ、支援を頼む。大日は前に出て、金華と伊吹は月夜を守るんだ。能郷と立山は私に合わせて追撃するんだ、いいね」  それに合わせて皆が頷く。が、そんな様子に焦りを抱いた月夜は、思わず術を行使した。 『天照ノ祝福(あまてらすのしゅくふく)!』 『月夜見ノ幻影(つくよみのげんえい)!』 『素戔嗚ノ守護(すさのおのしゅご)!』  月夜が神術を放つと、凄まじい光が皆に降り注ぎ、いきなり大技をつかった月夜は顔を青ざめ、その場で膝を突き息を荒げる。 「焦っちゃ駄目だ月夜、落ち着けたわけ!」  真っ青な顔を必死に上げ、額に脂汗を浮かべる月夜の頬を、穂乃華が叩く。 「はぁ、はぁ、ご、ごめんなさい穂乃華さん……」  涙目になり頬を抑えた月夜は、過呼吸になりながらも、必死に心を落ち着けるようにもう一方の手で胸に手を当てる。 「落ち着くんだ月夜、焦って術を使っちゃ消耗するだけだ。とはいえせっかく月夜がかけてくれた加護を反故には出来ないよね。月夜はそこでしばらく大人しくしてな」  そう言い放つと穂乃華は皆の前に駆け出していく。それを守るように大日も一緒に走リ出す。 「火を司りし迦具土(かぐつち)の炎(まとい)し、天津甕星(あまつみかぼし)の産み落としし焼石を、大地ノ(だいちのはは)伊邪那美命(いざなみのみこと)よ受け止めたもう願う」  穂乃華は祝詞を口にすると、そこで立ち止まるように足を止め、 『火球大流星招来(かきゅうだいりゅうせいしょうらい)!』  と、神術を唱える。すると同時に、上空に火の玉が幾つも同時に産み落とされた。そして、間髪入れずに大地を大きく揺らすように地面を叩きつけ、何人かが均衡を崩し座り込む。 「す、すごい……」  すでに地に座り込んでいた、月夜は感嘆の声を上げる。  そしてしばらくの時を置き、周りが静寂を取り戻すと、そこにはまるで何も無かったかのように静けさが広がっていた。 「やりましたね、穂乃華。流石は副団長ですな」 「止めとくれ、好きでやってんじゃないんだ。月夜、大丈夫かい」 「はい、ありがとうございます」  伊吹に揶揄され、苦笑した穂乃華は、月夜に手を貸し目の前に立たせる。月夜は顔色こそ戻りつつあるも、まだ肩で息をしつづけていた。 「たく、無茶するんだから。あれだけの大型支援を無詠唱でやるなんて無茶しすぎだ、普通ならぶっ倒れてるとこだよ」  穂乃華は眉間に皺を寄せながら、軽く月夜の額を小突いていた。
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