神力が生み出す世界

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神力が生み出す世界

夜も更けた頃、疲れ切った月夜(つくよ)は椅子に座ったまま眠り、それを見守る穂乃華(ほのか)以外の他の者たちはテントの中に引きこもっていた。酒の入った杯を片手に、飲み続けている穂乃華は目だけを私に向けてくる。 「なぁ、今も見てんだろ。私と話をしないかい」  穂乃華は焚き火台に薪をくべ、私の方を見つめながら口元を緩めると、そう口にした。  矢張り、私のことに気づいているのか……。 「なんだいつれないねぇ、話ぐらいしたっていいじゃないか。減るもんじゃあるまいし」 「いつから気づいていた」  私は月夜の体に憑依すると、そう口にして強い眼光で穂乃華を睨んだ。 「はは、月夜でもそんな目が出来るんだねぇ。人の性格がここまで表情を左右するとはねぇ。で、あんた、いったい何者なんだい」  そう言うと、穂乃華は月夜の姿を借りた私へと口だけに笑みをみせ、刺すような眼光で睨み返す。 「質問に質問か?まぁいい、何者なのかか、それは私が一番知りたいことだ。ただ分かっていることもある。私はこの世界の者ではない、これだけは確かだ」  穂乃華は手にした杯を机に置くと、少し難しい表情をした。 「似た者同士って事か。ああ、すまんあんたの事に気づいたのは、多分あんたと始めてあった時には気づいてたね。始めは荒御魂(あらみたま)かと思ったしな」  荒御魂とはこの世界で生まれる、負の遺産であり、現代世界で生まれる大気汚染などの自然破壊をする要素に、意思のような物が生まれた存在と思ってもらえば分かりやすいだろうか。 「始めからか。それより、似た者同士ってのが気になったが、どういう意味だ」  それに対し穂乃華はため息を漏らし頬杖をつくと、もう一方の手で頭を乱暴に掻いた。 「なんだ、知らなかったのか、てっきり知ってると思ってたよ。まぁ、なんだ、月夜は自分が何者か知らないんだ。記憶がないとかとは違うんだがな」 「どういう事だ」 「その体見てどう思う。そいつもう十六歳なんだぜ、うちと四つしか変わらないんだ、見えないだろ。後、髪が銀髪で地を引きずるほどの長い髪。これには全部訳があるんだ」  穂乃華は杯に酒を乱暴につぐと、少し苛立つようにそれを飲み干す。 「十六歳?どう見ても十二、三歳程度にしか見えんぞ、成長が止まっているとかそう言う事なのか……」 「半分正解で半分間違いだ。成長が遅いんだ、ただ今も成長を続けているが何処まで成長できるか未知数だ。もしかすると止まってしまうかも知れないし、人並みまで成長するかも知れない、前例がないんだよ」 そこまで言った穂乃華は、忌々しいといった様子で再び杯の酒を一気に飲み干すと、そのまま机に叩きつける。 「その髪も同じだ、始めは綺麗な真っ黒な髪だったそうだ。それがどんどん色が抜け、十歳を迎えた頃には今のような色になっていた。あんたの世界は知らないが、この世界は髪の色は多種多様だが、銀髪は居ないんだよ」  そう言うと、穂乃華は自らの燃えるような赤い髪を乱暴に掻き上げ、右足を椅子に乗せ、そこに右肘を乗せて月夜の身体、もとい私へを見つめた。 「どうしてそうなったんだ、理由があるんだろ」 「神力が強すぎるんだよ。うちも強い方だけどその比じゃない、月夜は肉体の方が耐えられないんだ。それを補うために髪が力を放出する媒体として、緩和する役目を持ってるんだ。一度髪を切った事もあったそうなんだが、それが原因で大量の神力が体内で暴れ出したらしいんだ。収まることの出来なくなった力が身体から一気に噴き出し、自らの神力で月夜の体は悲鳴をあげ、穴という穴から大量の血が噴き出し、生死を彷徨う事になったそうだよ」  苛立ちを隠しきれず、穂乃華は奥歯を噛みしめ私を睨み付けてきた。
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