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1 奈津
3月下旬。
会社近くの桜も開き始めた頃、遠距離恋愛中の彼氏が帰って来た。
「……うーん……」
新横浜駅の化粧室で、あたしは鏡を覗き込んでいた。
髪もお化粧も服も、美容院に行ったり、新しいのを買ったり、出来る範囲で頑張ったはずなのに、これから会うとなると、どれも今ひとつに思えて来る。
コートの色。合わせたバッグ。ネイルの色。
全取っかえしたくなるけど、腕時計は彼の乗った新幹線の着く5分前を指している。
……仕方ない。
ふうっ、とあたしは息を吐いて化粧室を出た。
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