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昭和60年4月8日
入学したばかりの中学校。私はきょろきょろしながら、初めて行く購買へと足を向ける。
早速消しゴムを忘れて来る辺り、忘れん坊の私らしい。
朝と昼しか開かない購買には、既に何人かがやって来ている。それぞれが、廊下に向かって開いた小さい窓でやり取りをしている。
何となく出来ている行列の後ろに付き、自分の番を待つ。
「どうぞー」
声をかけられて、自分の番が来たことを知る。
声の主を見て、息が止まった。
この人、知ってる。
小学校の時に好きだった…今でも好きだけど…晃貴くんのお姉さんだ。
切れ長の、涼し気な目がそっくりだ。何となくはその存在を知っていたけれど、ちゃんと見るのは初めてだ。
とても綺麗な人。
晃貴くんより、ずっと煌めいている。
「どうぞ?」
何をしに来たのかわからなくなる程に見蕩れていた私に、彼女は怪訝な表情を浮かべてもう一度声をかけてくれる。
「…あっ、あの、消しゴム…ください…」
どうにかそれだけを声に出す。
「はい、100円」
私はポケットからなけなしの100円玉を差し出す。
彼女はそれを受け取り、「はい、ちょうど」と返しながら消しゴムを渡してくれた。
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