四章

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「そうか。ところで、琴把。旨そうなものを………待て、別に取り上げはせんから、不倶戴天の敵を見るような殺意ましましの目でこっちを見るな。」 切り分けながら食べる手を止めていた熊肉のステーキを見て達人が溢した言葉を聞いた琴把が、形容しがたい表情で殺意を露に達人を睨む。直後、唸る琴把を、大皿と取り皿三枚を手に現れた樹が制止した。 「がるるるる…」 「ほら、まだあるからそんな餓えた狼みたいな顔して威嚇しない。小麦粉と卵買ってきて、一口唐揚げ風作ってみた!沢山あるから、達兄さんも食べてね。」 「ああ、貰おう。」 「樹姉、レモンある?」 「あるよ。ただ、掛けるなら自分の食べる分だけにしなね?」 「わかってるよ、もぐもぐ…。」 半分に切ったレモンを、琴把と達人の前にそれぞれ置いて樹が柔和な笑みを浮かべる。大皿に乗った唐揚げを一つ右手でつまみ、口に含んで咀嚼して満足げに頷いて、左手で琴把の頭を軽く撫でる。 「………?」 「まだ他にもあるから、取ってくるね。不思議なことに、野生獣肉(ジビエ)なのに強い癖がないからどう調理しても美味しいんだよね、あの熊肉。」 「んぐ………それは楽しみだね。」 「うん、あたしも楽しみ。琴把が美味しそうに食べてくれるから、つくりがいがあるよ。」 樹は笑って、鼻唄を歌いながら建物のなかに消えた。 「楽しそうだなぁ…樹姉。」 「お前が美味しそうに食べるからだろう。」 「そうかなぁ?」 「あやつは、身を守ることすら満足に出来ん。だからこそ、一つでも弟妹達に誇れるものがほしいと、ずっと試行錯誤を続けていた。」 「ふーん………樹姉は頭も良いし、そんなことしなくてもずっと私の自慢のお姉ちゃんなのに。」 「樹は、そうは思っていないのだろう。」 「そうなんだ………。」
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