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「そうか。ところで、琴把。旨そうなものを………待て、別に取り上げはせんから、不倶戴天の敵を見るような殺意ましましの目でこっちを見るな。」
切り分けながら食べる手を止めていた熊肉のステーキを見て達人が溢した言葉を聞いた琴把が、形容しがたい表情で殺意を露に達人を睨む。直後、唸る琴把を、大皿と取り皿三枚を手に現れた樹が制止した。
「がるるるる…」
「ほら、まだあるからそんな餓えた狼みたいな顔して威嚇しない。小麦粉と卵買ってきて、一口唐揚げ風作ってみた!沢山あるから、達兄さんも食べてね。」
「ああ、貰おう。」
「樹姉、レモンある?」
「あるよ。ただ、掛けるなら自分の食べる分だけにしなね?」
「わかってるよ、もぐもぐ…。」
半分に切ったレモンを、琴把と達人の前にそれぞれ置いて樹が柔和な笑みを浮かべる。大皿に乗った唐揚げを一つ右手でつまみ、口に含んで咀嚼して満足げに頷いて、左手で琴把の頭を軽く撫でる。
「………?」
「まだ他にもあるから、取ってくるね。不思議なことに、野生獣肉なのに強い癖がないからどう調理しても美味しいんだよね、あの熊肉。」
「んぐ………それは楽しみだね。」
「うん、あたしも楽しみ。琴把が美味しそうに食べてくれるから、つくりがいがあるよ。」
樹は笑って、鼻唄を歌いながら建物のなかに消えた。
「楽しそうだなぁ…樹姉。」
「お前が美味しそうに食べるからだろう。」
「そうかなぁ?」
「あやつは、身を守ることすら満足に出来ん。だからこそ、一つでも弟妹達に誇れるものがほしいと、ずっと試行錯誤を続けていた。」
「ふーん………樹姉は頭も良いし、そんなことしなくてもずっと私の自慢のお姉ちゃんなのに。」
「樹は、そうは思っていないのだろう。」
「そうなんだ………。」
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