四章

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「………やってくれるね、琴把。」 「随分丈夫な棒切れだね、それ。ちょっと分厚いだけの鉄扉程度なら軽く減し曲がる程度には力いれて殴ったのに、折れるどころか歪みすらしてない。」 「この剣は決して折れない。そして、この剣を手にした今、僕は君を越えた。」 「ほざけ、スポーツと武術の違いも分からないくせに。護身術すら知らないお前が、私を越えた?冗談はそのあっぱらぱーな頭の中だけにしてよ。」 「さっきは不意を突かれただけさ。直ぐに解る。」 抜き身の剣を下段に構えて、誠司が踏み込む。瞬きの間に目の前に現れたその腹を、琴把の拳が強かに打ち据えた。 「不意を…何だって?」 「あれ?」 「その剣、身体能力を引き上げてるな?今までのお前なら、咄嗟に飛び退く程度は出来たけどこんなに速くは動けなかった。」 「湖精星剣の力のひとつさ。………でもおかしいな、ここに来るまではもっと速く動けてたのに?」 「へぇ。それはそれとして一つ。剣を振るなら、近すぎるよ。この距離じゃ、いくら名剣でもただのガラクタだ。」 「だったら体術で」 「阿呆が。ここまで詰め寄ったその時点で、お前の敗けだ。………んだよ。」 流れるように右の爪先が鳩尾と喉に突き刺さる。 掌打で顎をかち上げ、無防備な喉に抜き手が食い込む。 こめかみに手刀を打ち込み、身を翻して鳩尾を肘で打つ。 掌打で胸の中央を打って突き放し、強烈なソバットで大きく吹き飛ばした。 「いたたた…」 「………手応えが変だ。一体何をした?」 「多少は効いたけど、大したことないな。僕の勝ちはこれを明かしたところで揺るがないし、教えて上げるよ。湖精星剣のもう一つの能力さ。見せてあげるよ。“原初の星よ地の底で輝け”『遠き理想郷(アヴァロン)』。」 『…んなあほな。』 「………小癪な真似を。」 「外界からの衝撃を遮断し、所有者を守る不可視の鎧さ。」 「衝撃を遮断する割にはよく吹き飛ぶじゃないか。そんなもので勝ったつもり?…仏説、摩可般若波羅密多心経。」 「そっちこそ、経なんか唱えて何の意味が、っ………は?」 「我が八極に二の打ち要らず、ってね。私の異次元の膂力を前にして、鎧ごときに何の意味があろうか?打撃が当たる瞬間に力を込める、ただそれだけの小細工さ。裏当ての応用だよ。経を唱えたのは集中力をより高めるため。」
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