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「駄目だ。」
「何故?こいつを始末しておけば、面倒なことがひとつ減る。」
「琴把。もしそいつを殺したら、もう向こうの世界には戻れなくなるよ。貴女は戦う楽しさを知った。いいえ…知ってしまった。ひとつ殺せば、あとはもう二つも三つも同じ。貴女はそう思うタイプの人間だから。それに………」
「俺達を狙っていた連中から────少々荒っぽい方法でだが────話が聞けた。そいつを殺せば、余計に面倒なことになる。」
「へぇ?」
「具体的には、お前が魔王を倒さなければならなくなる。」
「………んだとぉ?」
「今そいつの中にある勇者の力とやらが、お前の体に乗り移るそうだ。俺と樹はお前とは別のルートで無理やり此方に来たから、その力とやらを受け入れる機能が器である肉体にない。自動的に、もうひとつの受け皿であるお前に力が流れるらしい。」
「………彼らに、何をした…!」
「ふん、なんのことはない。ただ、手足に関節を少し増やしてやっただけだ。四つ目を増やそうとしたところ、快く口を開いてくれたよ。」
「あとね、刃物をちらつかせたらあっさり白状してくれたよ。」
首を鳴らしながら宣う達人に、同調するように樹が解体用包丁を揺らす。
「よくも………彼らは愛国者だぞ!」
声を荒げる誠司を、二人が氷のような目付きで見下ろす。
「愛国者ぁ?………だから、何?これでも、あたし結構怒ってるんだよ?理由はどうあれ、あたしの可愛いただ一人の妹を、この子の意思を無視して、危険な世界に引き込んだ。その時点で、あたしの中の、あんたとこの世界に対する慈悲は欠片も残さず消えた。」
「怒っているのは俺も同じだ。俺の家族を、二人も危険な世界に居ざるを得ない状況にさせた。………とくに、戦う術をもたぬ樹が此方に滞在せねばならぬ状態を作り出した時点で、容赦する理由などない。愛国者だ?知るか、たわけが。」
「あたしは、暴力を使えないよ。でもね、今のあんたは全然怖くない。だって…その様じゃあ、琴把どころか悠にも負けるよ。」
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