35人が本棚に入れています
本棚に追加
「まだ言いたいことはある、が……一先ず後だ。」
「わかってる。三時の方向、距離四十五。数1。……あれ、四足獣?」
「むっ……!」
「樹、下がっていろ。」
「(琴:神血、鋼球!)(イ:はいな!)ぅらあっ!」
小さな金属球を手中に生み出し、振りかぶって投げる。
空気を唸らせ飛ぶそれは、狙った的には当たったものの、想定していた手応えはなかった。
「あれ?」
「む、中々やるなあの狐。」
「物騒な挨拶じゃの、娘。わえでなければ死んでおったぞ?」
「申し訳ない、視線を感じたから反射的に……世界観どうなってるの、ここ。」
「喋る狐がそんなに珍しいかえ?」
「狐とか以前に喋る動物自体初めて見たし、何だったら想像の産物なんだけど……九尾の狐なんて。」
茂みを薙ぎ倒しながら、自動車程の威容を誇る白い狐が現れた。
白い毛のその狐の身体には、琴把が溢したように九本の尻尾がある。
「そうかえ。……うーむ、獣の声帯では人の言葉は難しい。小わっぱ、ちと目を閉じておれ。」
「小わっぱ……ああ、俺のことか。」
「人化術を使うでの、久々のことじゃ…万が一わえがトチったときに小わっぱが痛い目を見ぬようにじゃ。」
「なるほど、そういうこと。達兄さんちょっと屈んで。」
「こうか?……樹、息が出来ん。」
「2分は止めていられるでしょ?」
「……まぁ、見えぬならそれで良いわ。そら、どろん。」
白い美しい毛並みの九尾の狐が、前足で強く地面を叩く。
蒼白い焔が燃え上がり、狐の姿を隠す。
焔が消えると、そこには白い着物を身に纏う、黒い白目に翡翠の瞳の女が立っていた。
女はその場に正座し、三人にも手振りで座るように示す。
三人が従うのを見て、満足げに笑い口を開いた。
「さて、一応名乗っておくかの。わえは白面金毛九尾、人の姿での偽名は幾つもあるが……今は翠月と名乗っておるな。久々にやったが、不備なく出来て良かったわい。それで……娘ら、名はなんというのじゃ?」
「私は嘉納琴把。」
「嘉納達人だ。」
「あたしは嘉納樹。」
「ふむ……カノウ、というのは娘らの姓か?……であれば、コトハ、イツキ、タツヒトじゃな。わえのことは一先ず翠月と呼ぶが良い。」
最初のコメントを投稿しよう!