四章

35/42
前へ
/136ページ
次へ
「まだ言いたいことはある、が……一先ず後だ。」 「わかってる。三時の方向、距離四十五。数1。……あれ、四足獣?」 「むっ……!」 「樹、下がっていろ。」 「(琴:神血(イコル)、鋼球!)(イ:はいな!)ぅらあっ!」 小さな金属球を手中に生み出し、振りかぶって投げる。 空気を唸らせ飛ぶそれは、狙った的には当たったものの、想定していた手応えはなかった。 「あれ?」 「む、中々やるなあの狐。」 「物騒な挨拶じゃの、娘。わえでなければ死んでおったぞ?」 「申し訳ない、視線を感じたから反射的に……世界観どうなってるの、ここ。」 「喋る狐がそんなに珍しいかえ?」 「狐とか以前に喋る動物自体初めて見たし、何だったら想像の産物なんだけど……九尾の狐なんて。」 茂みを薙ぎ倒しながら、自動車程の威容を誇る白い狐が現れた。 白い毛のその狐の身体には、琴把が溢したように九本の尻尾がある。 「そうかえ。……うーむ、獣の声帯では人の言葉は難しい。小わっぱ、ちと目を閉じておれ。」 「小わっぱ……ああ、俺のことか。」 「人化術を使うでの、久々のことじゃ…万が一わえがトチったときに小わっぱが痛い目を見ぬようにじゃ。」 「なるほど、そういうこと。達兄さんちょっと屈んで。」 「こうか?……樹、息が出来ん。」 「2分は止めていられるでしょ?」 「……まぁ、見えぬならそれで良いわ。そら、どろん。」 白い美しい毛並みの九尾の狐が、前足で強く地面を叩く。 蒼白い焔が燃え上がり、狐の姿を隠す。 焔が消えると、そこには白い着物を身に纏う、黒い白目に翡翠の瞳の女が立っていた。 女はその場に正座し、三人にも手振りで座るように示す。 三人が従うのを見て、満足げに笑い口を開いた。 「さて、一応名乗っておくかの。わえは白面金毛九尾、人の姿での偽名は幾つもあるが……今は翠月(すいげつ)と名乗っておるな。久々にやったが、不備なく出来て良かったわい。それで……娘ら、名はなんというのじゃ?」 「私は嘉納琴把。」 「嘉納達人だ。」 「あたしは嘉納樹。」 「ふむ……カノウ、というのは娘らの姓か?……であれば、コトハ、イツキ、タツヒトじゃな。わえのことは一先ず翠月と呼ぶが良い。」
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加