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「いつもこの子が抜け出すと思ったら、貴方のところに行っていたのね!通りで変なこと言うんだわ!まったく、勝手に出歩くなんて!」
「そうさせてたのてめぇだ!まだわかんねぇのかよ、クソ女!!」
「保護者は私よ!!子供は大人しく大人の言うことを聞いていればいいの!!」
「てめぇっ……!!」
今にも蹴り上げそうになった時、はなが叫んだ。
「もう……やめてよぉ……」
「はな……」
腕の中で泣きじゃくるはなの頭を撫でるが、隙をついて女は俺からはなを強引に取り上げ手首をガシッと労りのない手つきで掴む。
「行くわよ!!」
「あ……!嫌……!!やぁっ……!痛い……!!」
必死に暴れて抵抗するはなを見ていられず、女の手首を掴んだ。
「……待てよ。どこ行くんだ」
「痛っ……!何するの!?」
爪を立てて食い込ませるようにぎゅぅっと握る俺の手を外すのに必死なクソ女に鼓膜を破る声量で叫ぶ。
「そうだろ!?痛てぇんだろ!?てめぇがはなにしてんのはこういう事だ!いい加減分かれよっ!!」
「警察に通報するわよ!?」
「あぁ、言えよ。俺は悪人呼ばわりして突き出すのは勝手だ。ただ、子供は素直だぜ?すぐアンタの悪行もバレるぞ」
「……ッ」
「子供に痣まで付けるなんざ、アンタは大人の恥さらしだぜ。俺は自分の意思を貫く。それがてめぇの正義の為にする行動なら警察にでも刑務所にでも行ってやる。そいでこいつが平和で幸せに生き続けられるのなら、例えもう会えなくなってもな」
「……どうして他人のこの子の為にそこまで出来るの……?」
「……他人じゃねぇ」
「え……?」
固まる女に真っ直ぐ言い放つ。
「━━━俺にとっての花だ」
俺が言い放つと呆れたクソ女は「もういいわ」とはなの手首を離し、背を向けた。
「後悔するわよ」
「それくらいのが楽しめる」
フンッと鼻を鳴らして歩いていく後ろ姿にはなは「おばさん!」と明るい声で呼びかけた。
あんなやつに何を言うのかと黙って聞いていると、それは実に子供らしい無邪気な言葉だった。
「前に食べさせてくれたおばさんの『卵焼き』、とっても美味しかったよ!」
あの女との唯一の楽しかった思い出だったのだろう。女はその言葉に足を止めたが、またすぐに歩きだし、振り向くことなく人の波に消えて行った。
こんな目に遭わされても尚、楽しかった思い出を捨てずにちゃんと思い出という形でとどめていたはなが 俺には本当に眩しすぎる。
「本当に良かったのか?戻らなくて」
「うん、はなちゃ、かいにいちゃと居たいから!」
「そうか、とりあえずその怪我を病院で診てもらうか……」
「はなちゃ、それよりお腹すいた!」
「本当に大丈夫か?」
「うん!」
「なら、ひとまず何か食いに行こう。ろくに食べてなかったろ?何がいい?」
「卵焼き!」
「はいよ」
痣を服すため、自分の上着を羽織らせると、はなは俺の手をぎゅっと握った。
体中の痣をひけらかして歩くのは色々と面倒だったという理由で着せてやったのだが、その日からその上着ははなの物になった。
「かいにいちゃの匂いがするから好き!安心する!」だとか何とか。
今度は俺もはなの手をしっかり握り返す。
もうあの日のように「放せ」なんて言うことなく。
そうしてはなは俺の家で暮らすことになった。
独り暮らしの俺の家にその日以来元気で明るい花が咲き誇ったのだ。
はなは親に自分の名前の漢字を教えてもらっていないということで、結局「花」という漢字を教えてやり、それから練習と称して、花は気に入ったその字を書きまくっていた。
俺みたいな沈んだ海でも、こんな綺麗で元気をくれる花をうまく育てる事が出来るのかと不安はたくさんあったが、それからの暮らしは実に楽しいものになったのだった。
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