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ゲームと願い
そんな波乱も2人で超えた、ある日の朝、いつものように例の場所へ向かうと、その場所に見覚えのある人影が足を三角に折って膝に顔を埋めていた。
近くまで歩いていき、頭上から右の手の甲で頭を軽くコツンと小突いて「おい」と声を掛けると、そいつはいつもと違う笑顔を見せた。
大きな目を見開いてニコッと笑う愛嬌のある笑顔ではなく、少し力なくニヘッと目を細めて笑ったのだ。
「今日は随分早ぇな」
「はなちゃ、待ってたの」
「見りゃわかる。ガキは暇でいいな」
「にいちゃ待つの、楽しかったよ」
「はぁ?何言ってんだ?てか、お前いつから待ってたんだよ。まだ朝の九時だぞ」
「んー……おぼえてない」
「お前なぁ……」
その日からガキの方が早く、その場所へ着いていることが増え、次第には毎日ガキが待機態勢であることが当たり前になった。
しかし、出会ってもう半年が経とうとしていた時、珍しくあいつが俺より遅く姿を見せた。
妙な痣を腕と足につけて。
「遅かったな 」
「えへへ」
その日を境にそいつの笑顔は弱々しくなり、日に日にあんなにうるさかった口数も減っていった。
気が付けば俺の方が沈黙に耐えかねて、話題づくりに徹する始末。
それだけこいつは話さなくなったが、それでも毎日俺の元へ訪れてはいた。
そうは言っても、座って俺によりかかって黙り込むだけだが。俺の質問に答えるだけで、自分から話そうとはしなかった。
「飯、食うか?」
「……いらない」
素っ気なく返すガキは出会った頃に比べ、随分痩せてしまっていた。
「なにか食わねぇと大人になれねぇぞ」
「はなちゃ……食べちゃいけないの」
「は?なんで?」
「おばさんがね『お前が食べるご飯なんかない』って言ってたから……。はなちゃは食べちゃダメなんだって。じゃま……なんだって」
「あー……なるほどな」
ポツリポツリと呟くこいつの痣といいそのおばさんとやらの発言といい、どうやら家庭環境が最悪らしい。子供は何でも信じすぎるところがあるせいで、こんなに洗脳されているということか。これも全部大人のせいだな。
大人の風上にも置けないこいつの言うおばさんってやつにため息が漏れた。俺も親切な人間ではないと自覚しているが、クズに成り下がるつもりもない。
「腹、減ってんだろ?」
「うん……」
「なら食え」
「ダメだもん……」
「はぁ〜……ったく」
これだからガキは嫌いなんだ。
素直に答えるくせに、頑固に受け入れなくて嫌気がさす。
このまま手にあるコンビニの握り飯をこいつの口に突っ込んでやりてえ衝動をなんとか抑えここはその「おばさん」とか言う人間と同じ土俵に立つまいと立派な大人を演じる選択を取った。
「ゲームしようぜ」
「ゲーム?」
「あぁ、腹が鳴った方が勝ちっていうゲーム。簡単だろ?買ったらコレ食えるし、おまけに願い事を相手に言って叶えてもらう。お前の場合は俺に願い事を言うんだ」
「たのしそ!やる!!」
「よし来た」
そう言った直後、腹を鳴らしたこいつのせいでそのゲームは数秒で終わりを迎えたが。
「はい、おめでとうさん。お前の勝ち。食え。それから願いがあるなら聞いてやる」
ゲームという形にすれば素直に喜んで握り飯をガツガツと食べ始めたのだが、すぐに食べ終わり「じゃあね……」と考え出す。
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