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「また……明日もここ来ていい……?」
「あ?なんでそんなこと聞くんだよ。好きにすりゃいいだろ」
「ここに来ちゃいけないから……おばさんが家から出るなって怒るの……。かいにいちゃ居なくなっちゃう……?」
また「おばさん」か。気に食わねぇ。
そいつはどこまでも腐りきってやがるみてぇだ。
「さぁな。てめぇの居場所はてめぇで決める。行動も全部な。そこにお前が来るか来ないかは自分で決めろ。大事なのはお前がどうしたいかだろ」
「はなちゃ……かいにいちゃと居たいな……」
「なら、そうすりゃいい」
いつも素直なはずのはなはこの時だけは頑なに首を縦に振らなかった。時に素直で時に頑固なガキが俺はやっぱり大嫌いだ。だから、そのまま大人になられたら面倒なんだよ。
「おばさんがそんなに大事か」
「え……?」
「お前にとっておばさんは全てか?お前が俺といたいと思う気持ちは、おばさんのいいつけを破ることより弱いのか?つまり、それはお前が俺を捨てたんだ」
「ちがう……」
「違わねぇよ。俺はここを動かしねぇのに、お前は『 居なくなるか』なんて聞くんだぜ?それはお前がいなくなるんじゃねぇ。お前がその道を選ぶんだ。おばさんの言いつけを守る選択をして、俺を切り捨てるってことだ」
「……」
ガキにはいささか強い言い方だった気もするが、仕方がない。
そのおばさんとか言うやつの話になると、静かな怒りが湧いてやまないのだから。
考えを変えようとするのかしないのか、話は黙り込んだ。そして次第に大きな瞳から涙を流し始める。
声こそ出していないが、涙が滝のように流れ落ちている。
「泣くな、はな」
「……!!」
俺がはなから視線を反らして名を呼ぶと、はなは勢いよく涙で濡れる顔を上げた。
「泣いて解決しようと思うな。目の前のものだけが正しいと思い込むな。与えられるものすべてが安全だと考えるな」
「はなちゃ……どうしたらいいの……?」
「それは自分で探せ。だが、人生の先輩としてなら助言をやらないでもねぇよ」
「じょげん……?」
「簡単に言うなら、お前のためのヒントってとこだ。お前が本当に今の状況をどうにかして、俺といたいなら、俺の言うことを胸に刻め。つまり、忘れるなって事だ。だがそれには心の強さと勇気もいるぜ」
試すようなことを言ってもはなは「うん」と真っ直ぐに答えた。
「お前は何でも信じすぎなんだ。おばさんに『 お前の飯はない』だとか言われて嬉しいか?」
「ううん」
「そうだろ?ならそれは間違ってるってことだ。言われたことを1度疑ってみろ。自分の心に聞いてみるんだ。それで自分が正しいと思うことをしろ。自分をしっかりと持つことを覚えるんだ。本当にそれが正しいと思ってお前がとった行動なら俺も出来るだけの事はしてやるから」
「ほんと!?」
「男に二言はねぇ」
「にごん?」
「嘘はねぇってことだ」
しっかりと伝えるとはなも理解したらしく一気に不安な顔からあの笑顔に戻る。
「人間には一人ではどうしようもねぇ時だってある。その時は人を頼れ。困ったとき一番に頭に浮かんだ人にな」
「かいにいちゃに?」
「それはお前の自由だ」
「はなちゃはかいにいちゃ好きだもん!」
「お前……話分かってっか……?まぁ、その時、お前の頭の中に俺が浮かんだなら、ここにまた来い」
「うん!!やくしょく!!ね!!」
「約束、な」
その日は久しぶりにはなの屈託のない笑顔を見た日だった。
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