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2.海って、どんなところ?
「狐乃音ちゃんは、海に行ったことはある?」
狐乃音はある日、お兄さんにそんなことを聞かれた。
「海は、行った事がないです」
心なしか、狐乃音の狐耳がちょっとだけぺちゃっと垂れてしまった。
「じゃあ、行ってみない? それと水族館とか」
「行きたいです~!」
ぱあっと、明るい笑顔。狐耳もすぐにぴんっと立った。
狐乃音は海を、テレビで見たことはあるけれど、実際に行ってみたことはなかったのだった。
それと、新たな疑問がもう一つ。
「……水族館って、なんですか?」
「えっとね」
お兄さんは、いろんな事を教えてくれる。
かつて狐乃音は、この近くの大きなお屋敷の庭に祀られていた。
それなのに。時代の流れからか、祀られていた祠を壊され、追い出されてしまった。
行き場を失って困り果てていたところ、手を差しのべてくれたのが、このお兄さんだった。
狐乃音はお兄さんのことが大好きだった。
いつも、とても優しくしてくれて、いろんな事を教えてくれる。
感謝してもしきれない。
命の恩人であり、今なお支えてくれる。狐乃音にとってお兄さんは、まさに神様みたいな存在だった。
「海って、とっても大きいものなのですよね?」
「そうだね。とても大きいよ」
「海のお水は、しょっぱいのですか?」
「うん。しょっぱいよ。……まあ中には、しょっぱくないのもあるけど。淡水湖ってやつで」
「そうなのですか」
こうして、話の流れで、早速明日おでかけをしてみることになった。思い立ったら吉日といったところ。
「明日行くところは水族館というか、本当の海なんだけど。それでもいいかな?」
「勿論です~!」
お兄さんは在宅の仕事をしているとかで、時間の自由はある程度効くとのことだった。実に思いきりがよかった。
「何だかわくわくしてきちゃいました!」
気分はまさに、遠足前。そうと決まれば、準備をしなければ! おやつとか。
「……バナナはおやつに入りますか?」
「入らないんじゃないかな? 主食というか、お弁当の一部?」
何となく、お兄さんはそう思った。
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