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4.南の方へ
狐乃音とお兄さんの二人は、車で南に向かった。
ぐにゃぐにゃとした、急カーブだらけの山間部を越えて下ってくると、やがて海が開けて見えてきた。
「わあぁ!」
海は、想像以上に青くて雄大で、狐乃音は思わず息を飲んだ。
海沿いの道を、お兄さんが運転する車が快調に走っていく。
Zusukiという会社が作っている、とってもポピュラーな軽自動車。名前はWadonRというそうな。
狐乃音にはよくわからなかったけれど、どうやらハイブリッドという仕様で、環境に優しいらしい。
「これが海なのですね!?」
「そうだよ」
「おっきいです~!」
防波堤に波が当たってはじけ、白い飛沫をあげる。お天気はとてもいいけれど、波はかなり高めなようだ。
狐乃音は移り変わる景色が楽しいのか、ずっと外を見ていた。
「これからね。海中公園ってところに行くんだよ」
「そうなのですか」
「うん。もうすぐ着くから。もうちょっと待っててね」
「はい~!」
――それから十数分後。目的の場所に到着した。
「こっちだよ。おいで」
「は~い」
駐車場に車を停めて、目的の場所を目指す。
仲良く手を繋いで歩く様は、まさに親子。誰も疑いなどしなかった。
そうして入り口で二人分のチケットを買い、長いトンネルをくぐっていく。
「これから、どこに行くのですか?」
「海中展望台だよ」
「うきゅ?」
狐乃音はよくわかっていないようだった。
「簡単に言うと。海の中に入っていくんだ」
「お、溺れちゃいませんか!?」
「大丈夫大丈夫。ほら、あっち見て」
長い橋の先。海の上に展望塔が見えた。
「あれですか~」
人は、すごいものを作っちゃうのですねと、狐乃音は思うのだった。
狐乃音は長い髪を風で揺らしながら、塔の入り口へとたどり着く。
「目が回っちゃいそうなのです」
「足元、気をつけてね」
ぐるぐると長い螺旋階段を、ゆっくりと降りていく。そして……。
「着いたよ」
「わぁ!」
狐乃音は驚きとワクワクで、興奮していた。
はずみで、狐耳と尻尾が出ちゃったりしないようにねと、お兄さんに小声で注意されて、狐乃音は気を引き締めるのだった。
「ほら。窓から外をみてご覧」
「お魚さんが泳いでるのです~!」
平日なのですいていて、貸し切り状態。
「うきゅ~!」
狐乃音は、見た目の割にとても落ち着いた性格だった。その証拠に、言葉遣いも丁寧で、いつも敬語。
そんな狐乃音は今、はしゃいでいた。
「おっきいお魚さんがいました~!」
お兄さんは、狐乃音の気が済むまで付き合ってあげるのだった。
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