39人が本棚に入れています
本棚に追加
6.ディーペストブルー
高い波も何のその。
「急ぐのです!」
狐乃音は今、海の上をぴょんぴょんと飛びはねるように、駆けていた。その動きはとても速い!
狐乃音が言うには、これは『水とんの術』らしい。白足袋と草履が浮きの役割を果たしているのだとか。
『日本は古来から、忍者さんの国なのです! ですので、私も忍術のお勉強をしてみました!』
と、どこで仕入れたのかわからない怪しげな情報を、お兄さんに教えてくれるのだった。どや顔で。
『大昔の人……。ヤマトタケルさんも、忍者だったそうですよ? YohTubeの動画で、外国の方がそう言っていました』
それ、デタラメから信じちゃだめだよと、狐乃音はお兄さんに注意されたものだ。
それはさておき、今の狐乃音は白足袋と草履はもとより、巫女装束を含めて完全防水仕様になってるようだ。狐乃音が言うには『あくあもーど』とのこと。身も心も耐水性に切り替えたのだとか。まるで水神様だと、お兄さんは思った。
「すぐ行きますから、待っていてください!」
普段の紅白な巫女装束姿は、戦闘体勢といったところ。
「うっきゅ~~~~~! 急ぐのです~~~~~!」
程なくして、目的の地点に到達するはずだ。
(一人、二人……。いえ。四人、ですね!)
狐乃音は移動しつつ意識のセンサーを発動させて、現場の詳しい状況を再確認する。ひっくり返っているのは、漁船のようだ。
(お船の中に取り残されているのが一人。……いえ、二人のようですね。それと、海に放り出されてしまった人が、二人います)
ここで、狐乃音は秘策を使うことにした。
(一人は浅いところ。もう一人は、とても深いところにいますね)
狐乃音は懐から、小さな紙人形を三枚取り出した。これが狐乃音の言う秘策だった。
「式神さん! 私に、力を貸してください!」
そしてそれを、えいっと思いっきり投げると、ぽんっと音がして……。
「わかりました!」
「了解です~!」
「頑張ります!」
狐乃音の分身が現れて、協力を約束してくれた。
「行きますよ!」
やっと、目的のポイントに到達した。準備はできている。早く助けなければ!
「皆さんは船の中と、海の方を探してください! 私は、潜ります!」
自分の分身に声をかけてから、狐乃音は海の底へと潜っていった。
息を止めなくても大丈夫。ふさふさの尻尾はさしずめ、スクリュー代わり。くるくると高速回転して、結構な推進力を産み出していた。
(深い、です)
海とはこんなにも深いものなんだと、狐乃音は身をもって知った。
(深くて、暗くて……青いです)
目的の人がどこにいるのか、狐乃音はきょろきょろと探した。サーチライトはないけれど、気配でわかる。
まだ、命の息吹は消えてはいない。今ならば間に合う。急がなければ!
海中展望台で見たときは楽しかった。けれど……。
(うきゅ……)
一人、海の底に沈んでいくと、寂しくて怖いなと、狐乃音は強く思うのだった。
最初のコメントを投稿しよう!