6.ディーペストブルー

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6.ディーペストブルー

 高い波も何のその。 「急ぐのです!」  狐乃音は今、海の上をぴょんぴょんと飛びはねるように、駆けていた。その動きはとても速い!  狐乃音が言うには、これは『水とんの術』らしい。白足袋と草履が浮きの役割を果たしているのだとか。 『日本は古来から、忍者さんの国なのです! ですので、私も忍術のお勉強をしてみました!』  と、どこで仕入れたのかわからない怪しげな情報を、お兄さんに教えてくれるのだった。どや顔で。 『大昔の人……。ヤマトタケルさんも、忍者だったそうですよ? YohTubeの動画で、外国の方がそう言っていました』  それ、デタラメから信じちゃだめだよと、狐乃音はお兄さんに注意されたものだ。  それはさておき、今の狐乃音は白足袋と草履はもとより、巫女装束を含めて完全防水仕様になってるようだ。狐乃音が言うには『あくあもーど』とのこと。身も心も耐水性に切り替えたのだとか。まるで水神様だと、お兄さんは思った。 「すぐ行きますから、待っていてください!」  普段の紅白な巫女装束姿は、戦闘体勢といったところ。 「うっきゅ~~~~~! 急ぐのです~~~~~!」  程なくして、目的の地点に到達するはずだ。 (一人、二人……。いえ。四人、ですね!)  狐乃音は移動しつつ意識のセンサーを発動させて、現場の詳しい状況を再確認する。ひっくり返っているのは、漁船のようだ。 (お船の中に取り残されているのが一人。……いえ、二人のようですね。それと、海に放り出されてしまった人が、二人います)  ここで、狐乃音は秘策を使うことにした。 (一人は浅いところ。もう一人は、とても深いところにいますね)  狐乃音は懐から、小さな紙人形を三枚取り出した。これが狐乃音の言う秘策だった。 「式神さん! 私に、力を貸してください!」  そしてそれを、えいっと思いっきり投げると、ぽんっと音がして……。 「わかりました!」 「了解です~!」 「頑張ります!」  狐乃音の分身が現れて、協力を約束してくれた。 「行きますよ!」  やっと、目的のポイントに到達した。準備はできている。早く助けなければ! 「皆さんは船の中と、海の方を探してください! 私は、潜ります!」  自分の分身に声をかけてから、狐乃音は海の底へと潜っていった。  息を止めなくても大丈夫。ふさふさの尻尾はさしずめ、スクリュー代わり。くるくると高速回転して、結構な推進力を産み出していた。 (深い、です)  海とはこんなにも深いものなんだと、狐乃音は身をもって知った。 (深くて、暗くて……青いです)  目的の人がどこにいるのか、狐乃音はきょろきょろと探した。サーチライトはないけれど、気配でわかる。  まだ、命の息吹は消えてはいない。今ならば間に合う。急がなければ!  海中展望台で見たときは楽しかった。けれど……。 (うきゅ……)  一人、海の底に沈んでいくと、寂しくて怖いなと、狐乃音は強く思うのだった。
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