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3.やるしかねえっす!
「じゃあ……。改めて、悪いことに手を染めるってことっすか?」
「うむ。だが、悪いことにもよるな」
一言に悪いことと言っても、いっぱいあるだろう。
とにかく、人を傷つけるのはダメだ。条は、そう思っていた。暴力はだめだと。
「例えば……。電話詐欺とかっすか? 金持ちの老人相手の」
それを聞いた条は、大声を張り上げて怒った。それもだめ! と。
「馬鹿野郎! そんなことができるかっ!」
「悪いことをしようって、兄貴が言っているんじゃないっすか!」
「何の罪もない老人を騙して大金をせしめようなんざ、最低のゲスがやることだぞ!」
「同じっすよ同じ! 悪事に、犯罪に手を染めようとしている時点で、俺たちは誰にも申し開きができないくらいの、最低のゲス野郎じゃないっすか!」
「ちげぇよ! 確かに最低なのは事実だ! だが、やるにしたって罪の重たさってもんがあんだろが! とにかく電話詐欺はダメだ! 人のすることじゃねぇ! 恥を知れやこのタコ!」
そもそも犯罪自体が、まともな人のすることじゃないだろうにと、千秋は心の中で毒づいた。
ただ、条が言わんとしていることは、千秋も理解できるのだ。
認知力の低下した老人を狙うなど、卑劣極まりない。人として失格だと。そんなことくらい、わかっている。そもそもが、やりたくなんてないのだ。
「じゃあ、どうするんすか。一体」
「うーむ。……。ATMでも襲うか」
「それは、電話で老人を騙して金をせしめるよりは、マシってことっすか」
「そうだ。へっ。銀行なんてのはな。相手はでかい組織だ。たかがATMの一つや二つ襲われたところで、痛くもかゆくもねぇってもんだろ!」
そういうものだろうかと、千明は思った。
義賊気取り、というわけではないけれど。確かに、老人を狙うよりはまだ、痛みの感覚は薄いのかもしれない。
「連中は、仕事に下手打って破綻したところで、どーせ最後は国が助けてくれるってもんだろ? 金貸し連中がきちんと金を回さねえから、世の中がどこもかしこもケチ臭くなっていくんだ! 同情する必要なんざねえ!」
それは強がり混じりの嘘だ。健全に金を稼げるのならば、絶対にこんなことはしない。
「でも、どうするってんですか? 一言にATMを狙うっつっても、重機でも持ってくって言うんですか?」
具体的にはどうするというのか? 千秋が条に聞く。早速、根本的な問題にぶち当たる。
「……重機をレンタルする金がねえな」
「そうっすよね。せいぜい、レンタカーを借りるくらいが限界っす」
悪事を働くにも結構な金がいる。
話はなかなか、まとまらなかった。
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