第2資料室

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第2資料室

第1章 占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。 --第2資料室-- アーノネネにもオゴってもらった。 -------------------------------------------------- 「ふぅ。」 乱雑に放置されていた資料たちが、やっと棚の中に納まった。 小会議室にある良く使いそうな資料はアーノネネも使うし放置しているけど、それでも長い時間がかかってしまった。 (お、終わったか?) 机に立てかけられたジルの横には数冊の資料が開いて置いてある。退屈になったジルのために興味がありそうな物を広げてあげていると、一々朗読しては感想を言ってくれる。 (とりあえずはね。後は『失せ物問い』で探して引っ張り出せばすぐに終わるよ。) (長かったな。何日経ったんだよ。) (5日かな。) 床の上の資料を元の棚に入れ直すだけで、こんなに時間が経ったワケじゃ無い。半分以上は違う仕事をさせられていたのだ。 (あいつら仕事を押し付けすぎだぜ。相棒も断れば良いのによ。) ソーデスカやアーノネネ、他のギルドの人たちも頻繁(ひんぱん)に資料室に来ては資料を探していくから、そのたびに手伝ってあげた。冒険者から問い合わせのあった魔獣の資料や、過去の参考金額とか、意外と資料室に用事がある人が多かった。 探すくらいはお手のものだけど、他にも資料の複写に依頼書の清書なんて仕事まで回ってきてしまった。 まぁ、それだって今まで文筆ギルドから貰っていた仕事だったから難しくはなかった。 でも、冒険者の新規登録や依頼書の作成、文字の書けない人の代筆とか話を聞きながら書いていく仕事はさすがに難しかった。書く速さと喋る速さが違うので、書いている途中に次の事を話してしまう人が意外と多いんだよね。 それに二転三転する話を間違えないように、急いで書きとらなきゃいけない。ソーデスカやアーノネネの有能さが良く分かった。冒険者を蹴散(けち)らす武勇伝だけじゃなかったんだ。 ちなみに、5日もあったのに占い師の仕事は全く無かった。 (まだ、クレーム処理までやらされていないから大丈夫だよ。) カウンターのソーデスカやアーノネネは上手に冒険者をあしらうけれど、ボクには難しそうな仕事だ。怒った冒険者を相手にしどろもどろした挙句に壁まで殴り飛ばされそうだ。 (いや、クレームの処理までやらされていたら、それこそ割に合わない。あいつら要らねぇじゃないかよ。) (女の子がカウンターに居た方が、ボクが居るより華があるだけでも良いんじゃない?) (毒花だぞ。それも猛毒だ!オレだったら嫌になるわ。) あれだけ街中では女の子の話をしていたから、てっきり毒花でも女の子であれば良いかと思っていたのだけど、ジルにも好みが有るらしい。 (気が強い娘は嫌いなのかい?) (嫌いじゃないが、食いモノにされていると思うとどうにも好きになれないな。) (まぁ、ご飯もオゴってくれるし、優しいんじゃない?) (いや、普通に給料で貰えよ。餌付けされて誤魔化されてんじゃねぇよ。) バタン。 「お、ヒョーリ。だいぶキレイになったね。モロリンタの資料ってどこに有る?」 第1資料室にソーデスカが入ってきた。資料の名前以外は同じことを毎回言っている。 「これでやっと書類探しが出来るようになるよ。」 『失せ物問い』のおかげで場所は判っているので、手早く棚の資料を取り出すとソーデスカに渡してあげる。 「ついでにキミが居なくても、もう少し使いやすくなるように整理してくれないか?」 (おい、やめとけよ。) ジルが警告してくれる。さすがのボクも、これ以上のタダ働きはやりたくない。床を歩けるようにして資料を棚に戻しただけでも感謝してもらいたい。 「いや、これ以上は使う人が整理した方が良いと思うよ。使い勝手の問題もあるしね。」 適当に言い訳をしてみたけど、これでソーデスカが納得してくれればうれしい。自分で棚を整理しないといつまで経っても資料の場所が判らなくて、棚に戻すことできないしね。 「そんな事を言わないでよ。ちょいちょいッと、ネ。」 「悪いけど今度は倍以上の時間がかかってしまうから難しいかな。それに、そろそろ新しい仕事を探さないと家賃が払えなくなる。」 多少のお金と食べ物が貰えるとしても、アパートの家賃には足りなくて、このままだと追い出されてしまう。 だいたい5日も経っているのに頼まれていた資料は1つも見つけていない。このまま細かく資料を見て入れ替えしなおすとなると本当に時間がかかりそうだ。 「いっそ冒険者ギルドに就職してしまえば?ああ、それが良い。他の仕事も頼めるし、みんなが喜ぶよ。ちょっと待ってて!」 と言って、ソーデスカはボクの返事も聞かずに出て行ってしまった。相変わらず人の話を聞いてくれない。 (ここで、就職ってアリなのか?相棒。) 心配そうにジルが聞いてきてくれる (どうだろうね?このままだと資料室にこもったまま老後を迎えそうだけど。) (オマエがカウンターに入ると冒険者のヤローは怒り出すだろうしな。クク。) ジルは笑うけど、ちっとも面白くない。 (冒険者の新人登録の時だって、すごい(にら)まれてたしね。) 思い出して、ため息を吐く。ボクだって代わりたくて代わったんじゃないのに。 (あいつ等は、なんで受付嬢から野郎に代わるんだよ!って目をしていたよな。オンナが目的かよって!) (裏方で済んで占いの仕事がボチボチできれば、ここで働いても良いかもしれないけど。) (占いの仕事は辞めないのか?) (ここでずっと資料整理していても、入って来るお金なんて微々(びび)たるもので変わらないだろ?) (そうだな、ちょっと安すぎるから、占いの良客を探すのはアリなのか。) ボクの占いを定期的に必要としてくれる人。欲を言えばパトロンになってくれる人が居てくれれば良いのだけど。お店を持つまではいかなくても、ご飯が食べられる程度の援助でもしてくれないかな。 (まぁ、ワガママは言えないけどね。占いで定期的にまとまった金額が、食べていけるだけの金額がもらえたら嬉しいよ。そうすれば孤児院での迷子探しも辞めなくて済む。だけど冒険者ギルドを出て何も仕事が無かったら、本当に飢え死にしてしまうしね。悩ましいね。) バタン。 「ああ、ヒョーリ。居たわね。」 てっきりソーデスカが戻ってきたと思ったのだけど、資料室に入ってきたのはアーノネネだった。 「あ、ヒョーリ。仕事入ったよ。」 「また、書類が増えるんですか?」 うんざりして口調が刺々しくなってしまう。また、違う仕事に振られて、てこき使われるのか…。いつになったら資料探しが始められるんだ。 「違うって、占いの方の仕事だよ。」 (良かったじゃん、相棒。待望の占いの仕事だぜ!) 「あ、はい。すぐ行きます。」 「孤児院のコロアンちゃんが居なくなったみたいなの。」 「え?」 手に持っていた資料を机に置こうと思ったその時、アーノネネが続けた言葉にボクは言葉を失ってしまった。 (知っているのか?) (泥団子をくれた子だよ。) 森に行く前に孤児院に仕事のお伺いで寄った時に、お腹を空かせたボクに何かくれようと手に持っていた泥団子をくれようとしてくれた優しい女の子。 (ああ、オレが初めて孤児院に行ったときに、オマエを泣かせたチビ助か。) 泥団子だって、本当に嬉しかったんだ。 -------------------------------------------------- 次回:幼女との『追いかけっこ』
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